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第4章「砂漠の薔薇」15


 ニヤリと笑いながらそう提案するナオに、ルークは引き金を引けなくなる。

――そうだ。あの鏡にコピーする力があるのなら!でも……

「お前のコピーは液体を人型にするだけの模造品だ」

「わかってないな……軍部が欲しいのはヤートじゃなくてコアの情報だよ? 軍部に渡したら殺されるのは明白じゃん! 対象を殺して機能を停止したコアと、ボクのコピーで複製されたコア。どちらも構造自体は同じだと思わない?」

 完全に撃ち殺す意味が無くなってしまった。今考えるべきことは、この少年をどうやって自分達の支配下に置くかということだ。

 何故なら――

「ほーら、殺せなくなった! さっきのレイルの様子を見る限り、君達はヤートを殺したくないみたいだったからね。でも……ボクは君達を殺したいんだよね」

 ナオの周りから黒い液体が湧き出てくる。

 まるでヘドロのようなその液体は、ナオの周囲に何十もの兵士を生み出した。

 全てが先程のルークの分身と同じように、黒く生気の無い瞳をしている。ただ、先程よりも黒みが濃くなった気がする。

「さぁ、どうする? ボクを殺したらヤートは助からないよ?」

 勝利を確信した様子のナオ。ルークは無線でクリスに連絡しようとして、耳元に響く雑音に顔をしかめる。

「無線で連絡なんて取らせないよ! 妨害電波が出てるからね」

「くそっ!!」

 ルークは床を強く蹴り跳び上がった。拳銃で兵士達の眉間を撃ち抜きながらナオを飛び越える。撃ち倒した兵士の低い断末魔がえらく耳障りだったが、そんなものは無視して走り出す。

 今の自分では判断出来ない。とにかく他の敵を全て殺してからナオのことを考えるべきだ。慌てて逃げ出したルークを、ナオが歓声を上げながら兵士達と共に追い掛けてくる。

 廊下の奥の扉を蹴り開けるようにして中に入って――強烈な殺気に銃口を向けた。それと同時に自分の首筋に当てられた剣先に生唾を飲み込む。

 目の前には苛立った表情を隠そうともしないレイルがいた。お互い、相手が敵でないことはわかっている。それでも互いが発する殺気はそのままで――

「お前、今……」

 レイルがニヤリと笑って言う。その言葉の続きを悟り、ルークもそれに声を合わせた。

「殺そうとしただろ?」

 言ってからようやく剣を下ろしたレイルに、ルークも溜め息をつきながら銃を下ろす。

「レイル、お前何人殺った?」

「逃がしちまって、今追っかけてたとこだ。ルークは?」

 レイルの問いにルークは部屋を素早く見渡す。

 エントランスと同じく出口は四つ。自分とレイルが出て来た左右の扉は排除して、クリスが戦っているであろう中庭への扉も排除。残るは奥へと続く扉だけだ。

「俺は逆に逃げてるとこだよ!! レイル、行くぞ!!」

「はぁ!? なんで逃げてんだよ!?」

 来た道から騒がしい足音が響いてきた。レイルもさすがに察したのか、奥へと続く扉に走り出す。

 二人が扉を開けたタイミングで、ナオと兵士達がなだれ込んで来た。レイルは、その光景を見てすぐさま状況を判断したらしく、さっさと扉の向こうに消えてしまう。ルークも慌てて追い掛けると、そこは長い長い螺旋階段となっていた。

 一瞬お互いの顔を見合ってから、弾かれたように駆け上がる。どうやら最上階までは分かれ道はないようだ。手抜きにも程がある。

「欠陥住宅過ぎんだろ!?」

「んなことよりルーク! なんであの黒い集団に追い掛けられてんだよ!? てめぇなら楽勝のハズだろ!?」

「小さな王様が殺せねえんだよ!!」

「あぁ!? あの黒い兵士に肩車されてはしゃいでるガキがか!? てめぇあんなガキでも好みなのかよ!?」

「好みは好みだけど理由はそれじゃない!! でもあいつがリーダーじゃなくて俺らを追い掛けてくれたのは良かった」

「一人で追い掛けられてろよ」

 ルークの弁解に、レイルはそう吐き捨てた。

「……レイル、俺のこと嫌い?」

「たった今嫌いになりそー」

「なんか傷つくんだけど……」

 追い掛けられながら涙が出そうになったが、我慢だ。

 その時階段の途中に蹲る男の姿が目に入った。並んで走るレイルの纏う空気が一瞬で変わり、彼女は無言で無抵抗の彼を、階段の下に蹴り落とす。螺旋階段の上から真っ逆さまに落ちていくその男の表情は、青白く震えていた。

「今のは?」

 あまり気乗りはしなかったが、一応戦況把握の為に質問する。するとなんとも面倒くさそうな声でレイルは答えた。

「つまんねーこと聞くなよ。私らが追いかけっこの鬼じゃなくなっただけで、あの坊ちゃんが鬼なのは変わりねぇ」

 長かった階段が終わり、最上階への扉を二人で蹴破る。そこには空中回廊が延びていた。大理石の美しい回廊が向こう側の一室へ繋がっている。位置的に中庭の遥か上に位置しているようだ。

「あそこが、最深部みたいだな」

「そうだよ」

 ルークの呟きに、後ろから肯定が返って来た。ルークとレイルは回廊まで飛び退く。一瞬不安に思ったが、回廊はかなり頑丈な造りで出来ており、少々の戦闘なら持ちこたえてくれそうだ。高所特有の風にひやりとする。

「おい、ガキ! なんだか知らねぇが殺せないらしいな!? 大丈夫、お姉さんがぶっ殺してやるから……」

「だから殺すなって言ってんだろ!! あいつの能力は鏡に映った者をコピーする能力で、それを使えばヤートさんは助かるんだよ!」

「……だけどあの様子じゃ、タダではしてくれねーんだろ?」

「ボクの名前はガキじゃなくてナオだよ。うんうん。情報通り、レイルはルークより賢いね」

 こくこくと頷きながら笑うナオに、レイルの表情が更に歪んだ。これは本当に苛立っている時の顔だ。

「殺さなかったら殺される……」

 レイルはそう呟くと、剣を両手に構えた。その瞳は真っすぐナオを捉えている。

「宝剣リキュアールに破砕刀黒雷……よくまぁ、そんな真逆の剣を両手で扱えるね?」

「私は特別なんでね」

「ふーん。そんな情報はないけど」

「男が女を全て知ろうなんて無茶なんだよ」

「ボクにはまだ早い話だね」

「言ってろ……」

 そう言うなりレイルは、一番手前の兵士に向かって飛び掛かった。無駄の無い流れるような剣捌きで数体を瞬殺。そのまま笑みすら見せながらナオに肉薄し剣を振り下ろす。ナオは、それを左に跳んで避ける。彼の後ろから兵士がレイル目掛けて剣を突き出した。黒さが目立つ剣をレイルは右に避ける。

 障害物が無くなった。ルークはこのタイミングを逃さず発砲。放たれた四発の弾丸はナオに一直線に向かっていき――新たに生まれた黒い兵士の身体に当たって相殺された。玉を掲げて満足そうに笑うナオに、ルークは溜め息。

「けっこう……殺すつもりでやったんだけどなぁ」

「残念だったね。情報通り、正確過ぎる射撃だね。それに、あっちも……」

「あっち……?」

 ナオの言葉に、ルークは彼の視線を追った。レイルが赤く光る剣――あれは黒雷の方だ――を兵士の身体に突き立てたところだった。苛立ちを隠さないおっかない顔つきのレイルが言った。

「このクソガキ……私らを嵌める気だぜ?」


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