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第4章「砂漠の薔薇」14


 左側の廊下を歩いていたルークは、一つの絵に足を止めた。

 中庭を左右に挟み込むように造られた廊下。レイルが進んだルートと真反対に位置する場所に、左右対象に灰色の女性達の絵は飾られていた。

 色は無いが美しい絵に、女性には興味のないルークも一瞬感心した。大変芸術的なシルエットに、アーティストとしてのアンテナが反応する。

「象徴的な絵だよね」

 廊下の奥から響く声に、ルークは身体ごと向き直った。少し距離を開けて、金髪の顔色の悪い少年が立っていた。

 昼間に出会った骸を掲げた少年よりは少し上の年齢だろうか。幼い顔立ちをしているが、頬は細く、漆黒の瞳に明るさはない。黒く長いローブに身を包んでおり、手元が見えない。

 大人と子供がないまぜになった、不思議でどこか危うげな少年だった。

「この国の荒んだ中身、ピッタリだ」

 ルークは拳銃に手を掛けながら答える。

「うん。綺麗な景色が女の裸しか浮かばないのも人間性が出てるよね」

 少年も呆れたように言う。

「お前も敵みたいだけど、名前は?」

「ボクの名前はナオ。ボクは君のこと知ってるよ。ルーク」

「ナオ君ね……お兄さんなぁ、ナオ君みたいな綺麗ながきんちょ見てると興奮してくるんだ。さっさとどいてくれないかな?」

「それも知ってる。男の人、大好きなんだよね?」

「……やっぱり敵なんだなぁ」

 ルークは呟き、拳銃を抜き両手に構える。その銃を見て少年が歓声を上げた。

「噂通りのアンティーク銃だね! シルバーウィングの装飾銃!!」

「完全オーダーメイドの逸品だぜ?」

 ルークの銃は、大陸東部の老舗武器メーカー、シルバーウィングの特注品だ。正直、自分なんかよりよっぽど価値があると思う。

「ボクの武器はこれ」

 ナオはそう言ってローブの懐からガラス玉のような物を取り出した。びっくりする程透明な、何の不純物も混ざっていない玉。少年の手の平に収まるサイズのそれに、ルークは気が抜けそうになった。

「……なんだよ、そりゃ? ガラス玉?」

 どう見ても、ただのガラス玉だ。ルークの態度にナオはクスクス笑い出した。

「ガラスじゃなくて、鏡だよ」

「鏡?」

 少年が玉をルークに良く見えるように掲げた。玉にルークの全身が映り込む。何故か――嫌な予感がした。

「この鏡は映す者をコピーする」

 ナオがそう言うと同時に、鏡の中のルーク――小さな球体に映し出されているのでかなり小さい――が銃をしっかりと構え直した。どうやら物体をコピーして、それを操ることが出来るらしい。

「確かにびっくりするが、そんな鏡に映ったミニチュアに何が出来るんだ?」

「大丈夫。ちゃんと出てこれるし等身大になるから」

 笑って言ったルークに、ナオも笑顔で返す。

 その言葉の通り、彼の持つ玉からこぼれ落ちるようにして、ルークの分身が出て来た。最初は液体状だった身体がどんどんルークの形を作り上げる。

 完全に人の形になったところで、分身の瞳がぐるりと回ってこちらを見た。生気の感じられない、意思すら宿らない瞳。服装だけでなく、肌の色もどことなく黒い。

「この鏡には人間のありとあらゆる悪意が入ってる。だから映し出した物にも邪悪な黒色が移っちゃうんだ」

 そう言うナオを守るようにして、分身は攻撃を仕掛けて来た。二丁拳銃による激しい乱射を、ルークは横に跳んで避ける。オリジナルであるルークと同じく正確な射撃だ。これではナオに近付けない。

 ルークは動きを止めずに走り回る。自分の射撃の癖はわかっていた。短い間隔で照準を修正する自分には、短時間だけだが何度か必ず隙が生じる。

 ルークは素早く動き回って攻撃を避けながら、隙を見て氷結魔法を分身の足元に向かって放った。分身の両足を凍り付かせ、行動の自由を奪う。それでも射撃を続ける分身にルークは素早く肉薄すると、至近距離から顔面に二発、腹部に二発の銃撃を浴びせた。

 血の代わりに黒い液体を噴出する壊れた自分と瓜二つの顔に軽いショックを受けつつ、液体に戻っていく分身の身体をナオに向かって蹴り飛ばす。分身は、ナオに届く前に完全に液体と化し掻き消えた。

「オリジナルの方が強いに決まってんだろ」

 拳銃をナオに照準しながらルークは言った。

「そうだね。オリジナル云々を抜きにしても、ルーク……君は強いよ」

「……そんなの初めて言われたよ」

「……確かに情報によると、君はフェンリルでは一番弱いらしいね。それでも精神面では、抜きん出た強さがある」

「人の精神なんて、土壇場になんなきゃわかんねえもんだぞ?」

 眩しいくらいの笑顔で言うナオに、ルークは吐き捨てるようにして返す。

「そうかもしれない。でも君のリーダーはきっと、もっと弱いと思うけどな」

「リーダー? 今、リーダーは関係ないだろ?」

 ルークは少し声を荒らげる。これではまるで、自分が無視されているようだ。

「ボクはクリスと戦うよ。君にはボクは殺せない」

「あ? 好みのガキだろうが俺は殺せるぜ?」

「殺せないよ」

 そう言うなりナオは素早くルークに接近し、その銃口の先に己の額を当てた。

「ボクの能力があればヤートは助かるんじゃないかな?」


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