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第4章「砂漠の薔薇」11


 住宅地から離れた高台に、陸軍の宮殿のような建物は建っていた。白を基調とした丸みを帯びたシルエットは、月明かりの微弱な光を吸収し夜の闇に浮かび上がっている。その幻想的とすらいえる外観は、血生臭い軍部の建物としては不似合いだった。

 巨大な灰色の門の前で、クリス達を乗せた車は止まった。膨大な敷地をぐるりと取り囲む塀にそれほどの高さはなく、外敵の侵入を阻むというよりは権力の誇示という意味合いの方が強そうだ。

 普段は重たい門の扉は、開いていた。車から降り得物を手にしたフェンリルの面々に、扉は完全に解放されている。宮殿への道にも敵の姿はない。

「誘われてるな……」

 明らかな挑発にレイルが舌打ちする。

「僕らをお家に招いたらどうなるか、しっかり教えてやろうぜ」

 ロックが初弾を装填しながら軽口を叩いた。

「ヤートさんの場所は?」

「おそらく宮殿の奥だろう。コアを摘出されたら死んでしまう。あまり時間はないぞ」

 ルークの問いにクリスは冷静に答えながら、運転手に移動するように伝える。車が静かに移動するのを確認してから、クリスはもう一度庭を確認。敵の姿は相変わらず無い。

「全員で宮殿に突入後は別行動だ。目についた敵は全員殺せ。ヤートさんを確保後はすみやかに車まで退避……おそらくはあの四人とも戦闘になるだろう。気をつけろ」

 クリスの言葉に全員が頷く。

「作戦を開始する」

 リーダーの合図に、フェンリルは音もなく庭を駆け抜ける。宮殿の入り口の扉をロックとルークが同時に蹴り開け、レイルとクリスが中に飛び込む。

 巨大なエントランスホールには、人影は無い。きらびやかなシャンデリアの光に死角はなく、部屋全体が兵舎や軍の中枢を担っているとは思えない豪奢な造りをしている。

 クリスは素早く全員に視線を送る。三人はそれぞれ別の方向に走り出す。レイルとルークはエントランスから左右に分かれた廊下へ、ロックは二階への階段を駆け上がる。クリスは残った中央の扉に手を掛ける。

 メンバー全ての戦闘スタイルを把握しているクリスに、無駄な命令は有り得ない。この扉の向こうからは無数の殺気が立ち込めている。おそらくは多数の敵との乱戦になるからこそ、クリスは真っ正面からこの道を突破することにした。

「数で質に勝てると思うな。鬼の名を見せてやろう」

 重たい音を立てながら開く扉の向こうに、闇夜に光る瞳の群れを見付け、クリスは刀を抜き飛び掛かった。扉を隔てて待機していた無数の兵士達の真ん中まで斬り込む。

 宮殿の中庭に位置するこの場所には、敵の大群が配置されていた。兵士達は揃いの剣で応戦するが、同士討ちを狙いながら動くクリスには逆効果だ。黒く鈍い光を放つ長刀を振り回し、明らかに不利な人数差も押し返していく。

――こんなものか。

 クリスは敵の戦力を分析し、彼らの非力さに溜め息をついた。彼らには自分達フェンリルにはないものがあるから弱いのだ。それは弱さを生み出すが、決して人間が失ってはいけないもの――殺しへの躊躇いだ。

 どれだけ精神教育をされた兵士でも、罪の無い人間を正気で殺すことは難しい。自分達のように狂っていなければ、心から崩れていく。

 お前達は人を殺す為に軍に入ったのか?

 守る為だというのなら、その選択は間違いだ。

「……焼き尽くせ」

 クリスは腰のポーチから取り出した札に強く息を吹き掛ける。その瞬間札から灼熱の炎が吹き出し、前方の兵士達を包み込む。

 お前達のトップはゼウスのコアを摘出し、この世に血の雨を降らせようとしている。

 だが――

 後方から斬り掛かってきた敵を振り返りながら斬り捨て、更に後ろの敵の胸を突く。

 自分がやることの最終地点も、きっと血みどろの上に立つことだ。結果は自分と同じでも、その血が愛する“仲間”である必要はない。だからこそこうして違う思想の下、戦っている。

 仲間の為に戦う――それはとても有意義なことで。

 だからこそ自分は更に強くなり、血に狂うこともない。命令の下での虐殺ではない。これは自ら選んだ戦いだ。

 自然と笑みが浮かぶ……これでは普段と変わらないではないか。表情を戻す為に一瞬目を閉じる。浮かぶのは困ったように笑う彼の顔。

「お前はまだ死ぬべきじゃない」

 最後の一人を斬り殺し、息をついたクリスの目に暗い銃口が飛び込んできた。

 中庭の奥――宮殿の奥へと続く扉の屋根の上。決して肉眼では捕らえることは出来ない距離だが、強烈な殺気はクリスの脳内に正確なイメージとして叩き込まれた。

――油断したな。

 中庭の柔らかい土に転がるようにして避けるクリスを、無数の銃声が追い掛ける。


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