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第1章「城塞都市」4


「多分それ、仲間の一人ですよ」

 口の端を上げニヤッと笑うレイル。ヤートは、何故かこの笑みに寒気を感じた。理由はわからない。

「この時期の旅行者は少ないからな……」

 そこでふとヤートは、自分の言葉の何かに引っ掛かったが、横からの歓声にその正体を掴み損ねた。レイルが安心したように歓声を上げている。目の前には明るい光に包まれた、賑やかな露店の並ぶ街角。

 城壁を抜けて商業区に着いただけだが、女の子一人で機械に襲われたのだから、安心して歓声を上げるのも仕方ないだろう。

「案内して頂いて、ありがとうございました」

 レイルがこちらを振り返り、ぺこりと頭を下げる。肩に掛かった大きな旅行鞄が、盛大に揺れている。

「もう迷子になるなよ」

 そう言い残してヤートは、城壁の穴をもう一度開く。城壁周りの巡回の後、システムの開発者達に、事態の報告を済ませないといけない。これからしなければならないことをぶつぶつと呟きながら歩くヤート。

「科学者の計画の為に旅行客を減らしたが、島の収入が無くなるのもな……そろそろ新規の旅行者も滞在者も潮時か……先週から定期便はもう無しに……っ!?」

 薄暗がりの中、ヤートは唐突に気付いた。先程掴み損ねた疑問が、一気に押し寄せる。

 旅行者を運ぶ定期便は先週ストップした。現在滞在している旅行者は、長期の研修等のグループで、この島にはもうかなり慣れている。城壁の周りにわざわざ近付くことはしないのではないか?

 だいたい、アルバイトをするようなグループはもう残っていないはずだ。ヤートは、もうかなり小さくなった光を振り返る。光の向こうに悪意を探して、ヤートは足早に防衛部隊の会議室を目指した。











 監視塔の最上階近く、広い屋根の上に、二人の男がいた。二人とも配送サービスのエプロンを着ていて、一人が梯子に手を掛けながら説明している。

「あーバイト君……クリス君だったか。この梯子登ったら、もう監視役の兵士さんがいるからね。いいかい? 兵士さんへの質問は一問だけ。兵士さんも忙しいから」

 この仕事を始めて早十年のベテラン配達員が、アルバイトのクリスに説明する。

「……はい」

「……君、真面目なんだろうけど、けっこう根暗でしょ? 返事はもっと大きな声で」

「……この上には監視システムの本体があるんですよね?」

 冷たい瞳で話題を遮るクリスに、配達員は憤慨した様子で、それでも客商売の賜物なのか質問には答えてくれる。

「ああ、そうだよ!! お前は、年上に対する態度がなってない!! だから……っ!?」

 激昂していた男は、静かにその場に崩れ落ちた。わけがわからないという表情の死に顔を、クリスは冷徹に見下す。その手には、血に染まった刃渡りの長い刀が握られていた。

「お前は……この国は、俺達の獲物だ。それ以上でも、それ以下でもない」

 クリスは軽やかな身のこなしで梯子を登り切ると、塔の上にいた“兵士さん”二人を斬り殺した。

 最上階は小さなワンルームのようになっており、そこかしこにモニターやそれに接続された機械類が設置されていた。予想と反して、原始的な窓等はない。人間の視覚ではなく、カメラの視覚によって監視しているようだ。

 クリスは、刀を腰に差して辺りを観察する。

 機械類の操作を確認したクリスは、腰のポーチから札を取り出し――エプロン以外は昨日と同じ服装で、ジャケットがなければまるでウェイターのように見える――それに指で文字を刻んだ。

 クリスの指が触れた部分から火花が散り、札には異国の文字が焼き込まれる。そして片方の手を耳に当てる。やや大きめの黒いピアスが光った。

「こちらクリス。全員配置についたか?」

『こちらロック。もう正面ゲートが見えてるぜ。ポジションはバッチリ』

『こちらルーク。俺も武器庫に潜入した。すぐにでも破壊出来る』

 ピアスに偽装された無線機から、仲間達の応答が入る。

「……」

 しばらく待ってみたが、もう一人の応答がない。

「レイル? 応答しろ」

『……わりいわりい。警戒の薄い場所探してたんだが、やっぱり戦闘にはなるな』

「元からそのつもりだろう? よし……作戦開始だ」

 エプロンを脱ぎ捨て、静かに号令をかける。


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