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第4章「砂漠の薔薇」3


 可愛らしいデザインの屋台を前にして、ヤートは目眩がしそうだった。

 女性とのデートなんて初めてなので、軍人としてどうかとは思うが訓練以上に緊張する。当のレイルは可愛らしい色とりどりのアクセサリーが並ぶ屋台で歓声を上げている。周りは女性や、いかにも暑苦しい若いカップルばかりでヤートはいたたまれない。

「ヤートさん、これどう思う?」

 レイルが片手をパタパタ振りながらヤートを呼ぶ。あまり近付きたくないが、彼女を放っておくことも出来ないので覚悟を決めて近寄る。

 レイルはシルバーのブレスレットを見ていた。少し厳ついデザインだが、彼女には良く似合う気がする。

「デザインが良い」

 自然にそう口にすると、レイルもにっこり笑った。

「私もそう思う。ねぇ、この中だったらどれが一番私に似合う?」

 屋台全部を指差しながら言うレイルに、ヤートは笑ってしまった。繊細な細工のアクセサリーが並ぶ店内で、そのブレスレットだけが違う空気を漂わせている。

「やっぱり、それだな」

「わかった」

 ヤートの言葉に、レイルは店主に「これください」と言って、そのブレスレットを購入した。

「袋、いりますか? それとも、今つけていきます?」

 若い店主が軽い調子で聞いてきた。レイルは一瞬悩んでから、「つけていきます」と答えた。そのまま渡されたブレスレットをヤートに手渡す。

「……え?」

「つけて?」

 レイルはニコニコ笑いながら右手を出してくる。彼女の言いたいことがわかって、ヤートは緊張で手が汗ばむ。

 店の真ん前で、沢山の人に見られながらヤートはレイルの腕にブレスレットをつけてやった。眩しい太陽の光でキラキラと輝くそれは、やはり彼女に良く似合っていた。

「似合う?」

 それ以上に輝く笑顔のレイル。

「……ああ、とっても」

 ヤートが照れながらそう返すと、レイルはさりげなく手を繋ぎながら次の屋台を指差した。照れ臭いやら嬉しいやらで、ヤートは顔の笑みがしばらく引っ込まなかった。デートはまだまだ続きそうだ。









 人通りのほとんどない、閑静な住宅街をロックは歩いていた。

 豪華な宮殿のような住宅が建ち並ぶ中、何もない更地の前で足を止める。唯一残った壊れた門に、売り出し中の札が掛かっている。

「んなもん、売れる訳がねーだろ」

 昔、一家惨殺の起こった物件。ロックの、学生時代を過ごした家だった場所。

 壊れ掛かった門を蹴り飛ばす。軍用ブーツによる蹴りで、門は小さな音を立てて倒れた。門に刻まれたデザインが、ロックを更に刺激する。美しい女神の模様から視線を外すようにして、ロックは足早に高級住宅街を後にした。


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