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第2章「脱出、船」7


 窓の無い部屋を見渡し、クリスは一人溜め息をついた。

 昔から閉鎖された空間には恐怖を覚える。独りぼっちが、堪らなく怖いのだ。寂しさを紛らわす為に、“相手と一つになる”行為がエスカレートしてしまった。

 “食事”を楽しむ時、心にあるものは常に相手への歪んだ愛情だ。自分の血肉に還元することで、寂しくなくなり、自分は独りぼっちではないと感じることが出来た。フェンリルのリーダーとなった今でも、結局治らず孤独を怖がっている。

 ただ、食事の頻度はかなり減った。それは仲間達への信頼の証だ。自分が暴走しても、絶対に仲間達が止めてくれる。強者だからこその信頼だった。そんなところに――

 自分の考えの矛盾に苛立ち、クリスは座っていたベッドに寝転がった。長い足をだらし無く放り出す。

 仕事中はほとんど感情が表情に出ないクリスだが、仲間達だけの前や一人きりの時はたまに気が抜けたような行動が出る。シーツに顔を埋めると、愛しいルークの汗の匂いを感じた。

――あいつは本当に暑がりだ。

 思わず声に出して笑ってしまった。

 ロックやレイルが言う程、そこまで太いわけではない。ガッチリした体格なだけだ。その鍛え上げられた筋肉には、フェロモン垂れ流しのロックとはまた違う良さがある。

 正直に言えばまだ笑みが止まなかったが、廊下に気配を感じたので、クリスは仰向けの体勢に戻った。

「只今戻りましたー。あれ? ルークのクソ野郎は?」

「あー?」

 扉を開けて入って来たロックに、クリスはベッドから上体を起こしながら返事をする。質問には答えていない。気分が悪いのだから仕方がない。

「あーれ、リーダーったらご機嫌ななめ?」

「人がいい気分で横になっていたんだ。邪魔するな」

「起きたのはリーダーの勝手じゃねーの」

「お前の前で寝れる訳がない」

「僕ってそんなにキケンな男?」

 舌を出して笑うロックに、それまで仏頂面を決め込んでいたクリスも笑ってしまった。それに安心したのかロックも今度こそ心からの笑顔になり、するりとクリスの膝の上に跨がってくる。

「お前、てっきりレイルと済ませていると思っていた」

「僕だって、リーダー達イチャイチャしてるかと思った」

 そう言ったロックの瞳がぎらつく。この瞳は――相当お預けをくらって苛立っているようだ。

「ルークは隣で楽しんでるよ」

「あんの死体マニア……それで? リーダーは寂しく一人で転がってたんだ?」

「シーツに、ルークの汗が染み込んでる」

「……悪い、萎える」

「お前だって嫌いじゃないくせに……隊長さん、好き嫌い無かったか?」

 ロックを抱きしめながらクリスは聞いた。

「どっちも好物だってよ。飲み物欲しがってたから、元から倉庫にあったミネラルウォーター渡しといたぜ」

「……男の匂いがする」

「リーダーもレイルも何なんだよ!? 僕が悪いってのか!?」

 話題を無視して急に身体を離したので、ロックが面食らったような声で反論した。

「……まぁ、どっちでも良い。レイルはどうだった? 見ては来たんだろ?」

「ああ。それなんだけどな……」

 ロックがヤートがゼウス計画の為に使われたと説明してくれた。話を聞く限りでは、まだどうするべきか判断するには情報が足りない。

「やっぱり、俺が直接聞いてくる」

「そうだろうと思って、レイルには釘刺しといた」

「……」

 余計なことを、とクリスは思う。捕虜がこちらに好意的なんて最高の状況で、その鍵であるレイルを遠ざけるとは……

 クリスが頭を抱えそうになっていると、ロックがベッドから降りながら聞いてきた。軽いいつもの調子の質問。

「リーダーは、あれのどこが気に入ってんの?」

「……」

「……リーダーもレイルも、気に入ってるのにさっさと引き渡して殺すのかよ?」

 何も答えないクリスに、ロックは質問を変えて聞き直した。思わずロックを見返すと、彼は今度は真剣な表情でこちらを見ていた。

 一番彼の中で引っ掛かっているのは『捕虜の今後』だろう。ロックの顔を見ればわかる。長い長い話を終えて、どこか自分と通じ合う部分があったのだろう。

 気まずい沈黙が流れる中、クリスは扉に向かった。ロックは何か言いたげな瞳でこちらを見ている。

「俺達の……伝説と呼ばれた初任務」

 扉に手を掛けたところでクリスは言った。振り向くと、ロックがこちらを凝視している。その目には、よく見慣れた光が燈っている。"あの時"も同じ光だった。

「リーダー……まさか」

 彼はまるで独り言のように呟く。

「それと同じだ」

 クリスは、そう言い捨てるようにして扉を開けて外に出た。

 ロックが普段より察しが悪いのは仕方がない。ヒントを与えていなかったからだ。リーダーとして、作戦を組み直す。

 そう、あの時――今でも軍部で伝説とされる、あの初任務のように。

 自分達が「フェンリル《神を喰らう狼》」と呼ばれるには理由がある。この世界の神と言っても過言ではない、軍部に反逆した危険分子。

――命令違反には慣れている。

 クリスは笑いを抑えることなく、一番奥の部屋の扉に手を掛けた。


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