表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
210/213

第13章「フェンリスヴォルフ」3


『どうして、ここまでできるんだ?』

 もう、開きもしない瞼の存在を“視認”しつつ、ヤートはそう“隣の男”に問い掛けた。

 座るべき主の身体を足元に、玉座に掛けるヤートの瞼――身体はもう、ヤートの意思で動きはしない。ゼウスによって魔王の身体に繋がれたヤートの身体には、既に人としての自由は与えられていない。

 開かない瞼の奥で、ゼウスを通して隣を“視”たヤートに、その男――サクの握る槍の意思である、褐色の男はふっと静かに笑った。

「それはお前の仲間のことを言っているのか? それとも、“俺”のことを言っているのか?」

 きっと瞼を開いて見てみれば、今もサクの姿をしているに違いない。だが、ゼウスを通して視るということは、『神のように全てを視通す』ということで。

 ヤートの隣に立つ男は、見上げる程の長身に鍛えられた身体を持った軍人であった。その身体は見たこともない素材――まるで魔力に長年漬け込んだかのように禍々しいレザーアーマーだ――に包まれており、赤褐色の長髪に精悍な顔つきがよく合っていた。こんな状況でなければ、男前だと素直に称賛できただろうに。

『どちらもだ。魔王に繋がって、今ではよく視える。フェンリルも狐達も、俺の命を救うために動いていたんだな。全ては……本部から俺を守るために』

「ああ。そうだ。本部はお前の命“だけ”を奪い、文字通りゼウスを機械<兵器>として使用できるようにしたいようだな。そのために“俺”を、新人に紛れさせてここに差し向けた。だが、それすらも狂犬共は読んでいたようだ」

『貴方の名前を、聞いてもいいかな? 魔王と魔力の繋がりのある貴方だ。きっと高位の軍人なのだろう?』

 魔力の繋がりがあるからこそ、ゼウスを介してヤートの声が彼には伝わっている。それすらも自然のことのように接しているのだ。おそらく彼は、相当の……

「俺の名前は……本部への“宣戦布告”の時にでも伝えてやろう。それより……ここは“お前の場所ではないぞ”?」

『……光将』

 男が嘲笑うような表情を向ける先を視認して、ヤートは思わずその名を呟いた。ヤートのその声が相手に届くことはなく、いつの間にかこの空間に侵入していたリチャードは、愛用の聖剣に手をやる仕草こそしたものの、この状況を理解するためにだろう。敢えて男の声に返答をすることにしたようだった。

「ヤート・ロッテン……貴方は囚われてばかりだな。意識はあるのか? それとも既にゼウスが接続されているのか?」

「俺のことは無視か? “相変わらず”光に見初められし人間は礼儀がなっていない」

「……お前は……特務部隊、ではないな? どういうことだ?」

「質問ばかりだな。聖剣の後継者よ。言ったはずだ。ここはお前の場所ではない。天界を追われた愚か者は、無様に地上を這いずればいい」

 吐き捨てるようにそう言った男は、おもむろに片手をリチャードに向ける。

「なっ!? お前はいったいっ!?」

 光将が口にできたのはそこまでだった。視認するまでもない強大な魔力の波に、彼の身体が――ルナール全体が押し流された。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ