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第1章「城塞都市」2


 それから二十六時間が経過した頃。

 レイルは、殺伐とした壁の横を沿うようにして歩いていた。昨日の夜にこの辺りの地図は頭に叩き込んで来たが、こうも同じような光景が続くと感覚がおかしくなりそうだ。

――これが敵を寄せつけない防御壁か。

 心の中で感心しながら、レイルは周りを改めて見渡す。

 右手に高くそびえる灰色の“城壁”は、空高くまで延びており、かなりの上空からでないと内部には侵入出来そうにない。試しに一時間程前にぶん殴ってみたが、小さな警告音が響いただけでびくともしなかった。相当な厚さの対魔合金ではないか、とレイルは推測する。

 昨日の夜から小さなコテージを借り切った四人は、今日から別行動に移っていた。

 仕事を忘れての久しぶりの散歩に浮かれていたレイルは、地図を見て目を疑った。目的地である商業区への入り口が見当たらないのだ。まず尺度からおかしい。こんなに広い範囲に城壁が広がっている訳がない、と甘く見ていた自分を恨む。これならここでしか出来ないであろう、短期アルバイト体験に出掛けた三人に便乗していた方が良かった。











 レイル達四人が訪れたのは、城塞都市『R2』と呼ばれる島国だ。

 “城塞都市”の異名の由来でもある島を縦断する城壁があるこの島は、元は小さな辺境の村だったのを、科学者達が軍用兵器の研究場所として買い取ったのが始まりだ。今ではかつての島民達は、生活必需品での商業や農業で、研究者や護衛の軍人達を相手にしている。

 持ちつ持たれつの関係には、天高くそびえ立つ城壁は無くてはならない存在で、危険な研究や演習から島民達は完全に隔離されて、商業区として設定されている居住区で安全に暮らしている。そんな一家の大黒柱である主達を守っているという意味で、島民達はこの高い壁を城壁と呼んでいるらしい。










 観光客用のパンフレットの情報を思い出しながら、レイルは城壁とは逆の左手に視線を向けた。軍の施設が遠くに見える以外は、鉄骨や何かの装置等が点在するだけで、これといった物は全く無い。

「つまんねーなー、クソ」

 悪態を付きながらレイルは足元に転がっていた石ころを蹴った。固いブーツの先端に当たった石は、ヒビ割れながら飛んでいく。少しキラキラと輝く反射材らしき物が含まれているようだ。城壁の一部だったのかも知れない。

 商業区に到着しないと、このブーツを履いて来た意味がない。ブーツどころか“完璧に決まった”ファッションを着込んで来た意味がない。

 昨日と同じく前を止めていない黒のジャケットから、白いシャツをだらしなく出す。黒のショートパンツに同じく黒のニーハイソックス、銀の刺繍の入った細身のブーツを履いて完璧な臨戦態勢なのに。

「どっかにイケメンか、美女はいねえのかよ」

 そうぼやいたところで、レイルは異様な気配を感じた。はっきりと自分への視線だと気付いたレイルは、姿勢を低くし腰に手をやってから気付く。

 ここは世界的に見ても安全な観光地で、自分は国外からの旅行者なのだ。今は肩に掛けた旅行鞄しか持っていない。商業区に行けばなんとかなるだろうが、そう待っては貰えないだろう。

 とりあえず壁を背にして、相手の姿を見定めることにした。

――挟み撃ちだけは勘弁だぜ。

 そう考えたレイルの横を、細いレーザー弾が通り抜けた。紫の細い光は、対魔合金の城壁に溶けるようにして吸収される。

 鉄骨の影に隠れるようにして、四本脚の虫を模ったような黒光りする機械が二台、砲台をレイルに向けていた。その二台は距離をどんどん詰めてくる。

 対してレイルは、対応を決め兼ねていた。レーザー弾が城壁に吸収されたところを見る限り、この機械達は防衛システムの一部だろう。もし事を起こせば商業区に入るどころか、国に帰れない可能性も出て来る。

「言葉がわかるなら、照準、外してくれないか? こっちは丸腰だ」

 膝を付きながらアピールする。言語は同じ国なので、防衛システム本体にも伝わっているはずだ。

 だが、機械達は全く照準を外そうとしない。虫の頭に当たる部分のセンサーが引っ切り無しに動いてレイルを観察しているようだ。そのセンサーはやがて、レイルの一部分で止まる。大きな旅行鞄に集中しているようだ。

 センサーの動きからレイルは、システムの性能に驚いた。そして、自分を守るように出て来た人影にも驚いた。


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