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第1章「城塞都市」16


 ロックは小型の軍艦の前で車を停めた。

 港の奥、外海に面した桟橋の真横に停泊していたその船は、昼前にロックが密かに奪っていた船だ。メンテナンスが終了した直後に襲い、周りにはメンテナンスが長引いているということにしてある。その一時間後には、相手は大混乱に陥っていたのだから少々不審でも問題はなかった。

 小型ではあるが日常生活を送る空間と武装は一通り揃っており、比較的しっかりした船室の一室にメンテナンスにあたっていた人間達の死体を放り込んである。

 車が停まったのを確認し、クリス、ルーク、ヤートの三人は荷台を飛び降りた。

 桟橋に続く広いスペース――普段は貿易関係の人間で賑わう市場が開かれている、が今は崩れた城壁によってところどころ店舗は潰されていた――で、飛翔する翼と向き合う。

 漆黒の翼が、一気に急降下してくる。それをクリスは刀で真正面から受け止める。色白でロック程ではないにしろ細身のクリスだが、しっかりと鍛えられた筋肉質な身体を持つ。刀身を覆う炎の文字が、翼の魔力に対抗するように燃え上がる。

 魔力と魔力がぶつかる独特な衝撃波が広がり、ルークがそれに合わせるように銃を乱射した。弾丸は全て寸分違わず羽根に突き刺さる。有効打ではないが、翼の動きは封じることが出来る。もがく翼を確認し、クリスは大きく距離を取った。

 飛び退くように離れたクリスに、翼はまだもがいているせいで追い付けない。そこにところどころに落ちていた対魔合金の塊が、無数に激突した。漆黒の翼を、無機質な輝きが覆う。その輝きは魔力が奪われている証拠だ。

 クリスはほっと息を吐き、その後すぐに目を見開いた。魔力を奪っていた無数の塊にヒビが入っていく。

「おいおい、どうなってるんだ!?」

 ルークが慌てた声を上げる。

「おそらく、許容量をオーバーしている。なんてデタラメな量の魔力だ……」

 翼がよろめきながら近くのクリスとルークに迫る。スピードは弱まっているが、二人には対抗策がない。

 翼が急にたたき落とされた。城壁だった塊が更に翼の上から降ってきたのだ。海水を帯びているその塊に、クリスは言葉を失う。

「なんとか、間に合ったな……」

 ヤートが額に汗を流しながら、後ろから歩いてきた。クリスはもう一度辺りを見渡す。








 翼は今度こそ沈黙し、魔力すら放っていない。そのうち消滅する。

 翼の周囲には、あれだけ散乱していた城壁だった塊が、一カ所に山積みにされており、その全てにヒビが入っていた。そして翼の上には、他の塊とは明らかに異なる城壁だった物が。

「周りに使える城壁が無かったんだ。だから、海に落ちた塊を動かした」

「……さすが隊長さんは違うな」

 ルークが感心した様子でヤートに言う。地唱術で扱うにはかなり高難度の物量だ。

――だが、そんなことより……

 クリスはもう一度翼の上の塊を見る。

 海に浸かった為に海水に濡れている。翼の周りには大量の海水も撒き散らされていた。対魔合金の岩石は、本来水を弾く。不自然な量の海水が、そこには広がっていた。まるで――海水ごと運んだように。

 クリスは頭を振って考えを切り替えた。

「お前ら、さっさと船に乗り込め」

 ロックは既にレイルを運び込んでいた。船の操舵室でエンジンを掛けている。

「ロック! まさか見捨てる気だった、とかねーよな!?」

 ルークがふざけた様子でデッキの上に位置する操舵室に向かって叫ぶ。

「バーカ。逃げる気だったらてめーの荷物まで運び込まねーよ」

「おーありがとう! どこに運んだ?」

「下の手前から二番目の部屋」

「よっしゃ!!」

「ロック……空き部屋は後、何部屋ある?」

「ん? 確か三部屋あったぞ」

 クリスが聞くと、ロックは鼻唄混じりに答えた。船は迅速に島から離れつつある。

「そうか。なら一番奥の部屋に捕虜を閉じ込めておけ」

 クリスがそう言うと、やはりロックが楽しそうに返してきた。

「ドンピシャ!! リーダーならそう言うだろうと思って、レイルは奥から二番目の部屋に寝かしてるぜ」

 クリスはロックを完全に無視し、デッキの端で佇んでいたヤートに近寄った。

「すまないな。助けてもらったことには感謝してるが、あんたは捕虜だ。大人しくしててもらおうか」

 建前上そう堅く言うクリスに、ヤートは肩を竦めながら言った。

「それが正常な判断だ。案内を頼む」









 クリスの発言は建前上のものだとはわかっていた。彼の瞳にはこちらを気遣う光すらあった。

 だが――

 ヤートは周りを改めて見渡す。

 窓すらない殺風景な船室には、簡易的なベッドとテーブルがあるのみ。唯一の武器である大剣は隣の部屋で、レイルと共に眠っているはずだ。外界へと繋がる扉も、今は外から頑丈に鍵が掛かっている。

――本当に、捕虜なんだな。

 ヤートは今更ながらに実感し、倒れるようにしてベッドに寝転がった。どうせ捕虜なら、今眠ったところで殺されることはない。ヤートは諦めながら瞼を閉じる。

 毒にうなされる少女のことを考えながら、すぐに深い眠りに落ちてしまった。


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