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6話 誰が騎士は魔法が使えない何て言った?【改稿版】

「はー、疲れた……」

 オレはガウェインがギルドに預けてあった馬車に乗り込むとため息と一緒にどかっと椅子に腰をおろした。

「大丈夫ですか? ですが流石ですね、三年のブランクを感じない演説でした、しかも内容は即興ですか?」

 ガウェインはオレの向かいの椅子に座りながら感嘆したような声をあげる。

「まぁ勇者だったときのが染み付いてるんだろうな、内容は歩いてる途中で適当に考えた、どんな反応がおこるかなんて大体予想できたし」

 オレが三年前勇者を辞めたことはかなり身近な人間しか知らない事実だ。

 建前上は魔王を倒して平和になった中、オレは王国の城に駐在して城を守っていることになっている。

 だから視察に来たということにした。

「しかしあれだけ人のことを愚弄してくる物達にあの言葉はいらなかったのではないのですか?」

「あの言葉?」

 ガウェインの言っている言葉というのがなんのことか分からず聞き返す。

「あれですよ、優秀なものが多いとおっしゃったじゃないですか」

「あー、あれな、確かにあいつらは口は悪いが実力は実際ある、オレが見てきたかぎりだとな、なら普段馬鹿にされていようとなんだろうと私情を挟まず事実を伝えるべきだろう、違うか?」

 あの近辺の冒険者達に優秀なものが多い、それは事実だ。

 三年間見てきたからその事実は確定で、だからこそ血気盛んな奴も多い、それだけのこと、別にバカにされたくらいで怒ることでもない。

「しかし一一」

「だーかーらー、そもそも気にしてないんだよ、なに言われようと! わかったか?」

 それでも引かないガウェインに今度は声を大にして伝える。

 本気で気にしていないのにこれ以上この話を複雑にはしたくない。

「……はい」

 ガウェインは少し逡巡した様子を見せた後に深く頷く。

 少し不服そうだかとりあえずはわかってもらえたようだった。

「しかし三年も経ったのに良い意味てお前は変わらないな、騎士としての誇りを大切にしている、オレなんかとは大違いだ」

 オレは言いながら自嘲的に笑う。

 オレはこの三年間で騎士としてのプライドも、意地も、全てを捨てしまったから、変わらないガウェインが少しだけ羨ましかった。

「そんなことは……」

「こんながたいのいい男に照れられても嬉しくないぞー」

 馬車の中の雰囲気が暗くなりそうなことに気付いてオレはすぐに空気を変えるためにわざと茶化してみせる。

「……っ!別に照れているわけでは!」

 こういう純粋なところも変わらない、からかいがいのあるところも、今だにオレなんかを慕ってくれていることだってそうだ。

 しばらくは大人しく馬車に揺られていたけど、ふと思い出して荷物を漁る。

「どうしました?」

「いや、たしかこんなかに入れといたと思ったんだけど……よし! あった」

 オレは荷物の中からひとつの袋を取り出した。

「ラッピングされた、クッキーですか?」

「ああそうだ、ギルドで受付をしているセシルっていう子がたまにおまけでくれるんだよ、これが美味いんだよなぁ」

 たまに貰えるこのクッキーは紅茶の茶葉が練り込んであって貰えた日は少し嬉しくなるくらい美味い。

「あ、でもしばらくこのクッキーはこれでお預けかぁ……」

 しばらくはもうこのクッキーとおさらばと考えると少し残念な気分になりながら、そういえばセシルに何も言わずに出てきてしまったことに気づく。

 まぁただの冒険者と受付嬢という関係だがこの三年間仲良くしてもらったんだから一言ぐらい声をかけてこれば良かったなとは少しだけ思った。

 これからしばらくギルドに顔を出せなくなるから万が一にも心配なんてしてくれたらと思うと申し訳ない。

 そんなことを考えながら、ラッピングを開けてクッキーを一つ掴み取り出して口に放り込もうとしたときだった。

ドオン!!

 大きな爆発音がしたかと思うと馬のいななく声とともに馬車が大きく揺れる。

 そしてそのまま馬車は止まった。

 かなり大きく揺れたが馬車はなんとか倒れはしなかったようだ。

「なんだったんだいったい、あ……」

「いったいなにが……なにやら外が騒がしいですね、私が様子を見に……」

 ガウェインは窓から様子を伺いながら立ち上がろうとしたが立ち上がることも、最後まで言葉を言い切ることもなく、全ての行動を止めた。

 それは多分、オレから漏れ出る殺気のせいだろう。

「ど、どうしました……?」

 ガウェインは恐る恐る、聞いてくる。

「クッキーが……」

「クッキーが……?」

「セシルから貰ったクッキーが……」

「クッキー……ああ……」

 そう、今の衝撃でセシルから貰ったクッキーを馬車の中に全てぶちまけてしまったのだ。

「しばらく食えなくなるのに……」

「ショックなのはわかりますが一旦外に出ましょう、外が騒がしいです」

「……わかった」

 悲しいクッキーの現実と暫くは向かい合いたかったけど、それも叶わず渋々オレは馬車から降りた。


「やっぱり勇者様の馬車だったぜ」

「あの方の占いは必ず当たるな、怖いくらいだ」

 失意に満たされながら馬車の外に出るとがたいのいい武装した男達に囲まれていた。

 ゆうに50人はいるだろうか。

「お前達は……!」

 その顔ぶれを見たガウェインは眉間に深くシワを寄せた。

 多分、こいつらが誰なのか知っている。

「こいつら、知ってんのか?」

 残念ながら見渡したところでオレは見知った顔はいなかったので素直にガウェインに聞くことにした。

「はい、ランスロットについて反旗をひるがえした王国直属騎士団ルナのもの達です、ほとんどがアーサー様の引退後に入隊したもの達ですが、鎧の胸のエンブレムも王国のものからランスロットが新しく掲げたエンブレムに描き換えられています」

「そうか……」

 ガウェインの説明で合点がいく。

 王国直属騎士団ルナ、名前の通りヴァルトシュタイン王国に忠誠を誓ったもの達。

 それなのにずいぶんとやけに簡単に離反したなとは考えた。

 オレがいなくなってから増えた団員達ならばその矛盾も理解できた。

 騎士団はオレが抜けたことで大幅な人員増員をした。

 そんな連中ならランスロットのよく回る口車に乗せられてもおかしくはない。

「悪いが勇者様と黒き盾にはここで死んでいただく、我らがランスロット様とグネヴィア様の名のもとにっ!!」

 まとめ役であろうやつはそう宣言すると剣を抜いて天にかかげる。

 そしてそれに呼応するように周りの奴らも次々に臨戦体制を取り始めた。

「アーサー様! ここは私が!」

 ガウェインが先一番に剣を抜こうとするがそれをオレは手で制する。

「お前は下がってろ、オレ1人で十分だ」

「……わかりました」

 オレが殺気に満ちているのを感じ取って素直にガウェインは後ろに下がる。

「俺たちを一人で相手にするつもりか……傲りもここまでこれば傑作だな、我らは元王国直属騎士団ルナだ! 選ばれし騎士だ! 三年も戦線から退いていたお前一人で一一」

「ガウェイン、もう少し下がってろ、久しぶりだからうまく調整できるかわからない」

 オレは敵の宣戦布告を遮ってガウェインにもっと下がるように手で促す。

 久しぶりに使うからあまり近すぎると多分ガウェインにも当たる。

「……はい!」

 ガウェインはこれからオレがなにをしようとしているのかを早々に察してくれてさらに後ろに下がった。

 こういうときオレの戦闘スタイル知ってるやつだと安心だよな。

「……無視とは、いい度胸だな、だがそれが命取りとなるのだ! かかれ!!」

 憤ったまとめ役の号令と共に敵は一斉にかかってくる。

 オレは右手を軽く天に伸ばし、そして叫んだ。

「サンダーボルトッ!!」

 その瞬間、空が大きくして轟き、激しい雷撃が敵の群れに降り注ぐ。

「ぐわぁ!!」

「がっ!!」

 オレの雷を受けた敵達はそれぞれがそれぞれに断末魔をあげながらばたりばたりと地面に倒れて付していく。

 全員が倒れたのをしっかりも確認してからオレは手を下ろした。

「騎士が魔法を使うなど……」

 属のなかで唯一かろうじて意識の残っていたリーダー挌が苦しそうに呻く。

「いつ騎士が魔法を使えないなんて言った?」

「くっ……! いいか! 我らレイクはランスロット様のご意志を現実のものにするために必ずお前を殺す! か、なら、ずだ……」

 そして、最後に啖呵を切るとそのままそいつも意識を手放した。

「流石の威力です、しかしこの世界では騎士が魔法を使うのは異例ですよ」

 オレの指示通りに下がっていたガウェインが戻ってきて苦笑いをする。

 とりあえず久しぶりすぎてちゃんと制御出来てたのかは微妙なところだったからガウェインに離れてもらっていたのは正解だった。

 そう、この世界では騎士は基本的に己の肉体のみで戦う。

 純粋なパワーを上げる系のエンハンス魔法ぐらいは使えるものもいるが攻撃魔法、属性のある魔法なんかは普通そういう教育をうけた魔術師が使うもの、というのが常識だ。

 だから勿論王国にも魔法使い専門の部隊がある。

 でも使えるもんは使えるんだから仕方ない。

「まあそれはそうなんだけどなー、とりあえずこいつらはここらへんの警備団を呼んできて捕らえさせとくか」

「了解しました」

 ガウェインはそれだけ言うと馬車から降りてきた国の使い達に現状を説明し始める。

 オレはとりあえず自分達が乗っていた馬車の御者のほうに近づいて言って声をかけた。

「大丈夫か?」

「は、はいっ! 奴ら火薬を使ったようでして……」

 慌てた様子で現状説明をする御者の腕にはひどい火傷痕が見て取れた。

 多分、外にいたせいでその火薬の爆発に巻き込まれた怪我だろう。

「怪我してるな、腕を出せ」

「え、は、はい……」

 不思議そうにしながら御者が火傷の跡がひどい腕をこちらへ差し出す。

「ヒール」

 その腕に手をかざしてから言葉を唱える。

 そうすればじわじわと火傷の痕は御者の腕から消えていく。

「騎士様が癒術を……?」

 驚いた御者を見ればもはや説明はいらないと思うが、癒術もまた騎士が使えるものではない、癒術師が使うものだ。

 まぁ本職のそれに比べればおざなりで粗末なものになってしまうけど色々あった関係で一応軽くは使えてしまう。

「相変わらず型破りですね、なんでもありだ、貴方がいれば魔術師も癒術師も形なしだ」

 後ろの馬車のものに言伝てを終えたガウェインが戻ってきてそう言ったけど、買いかぶり過ぎだ。

「……」

「敵も倒したのになぜそんなに暗いのです?」

 ガウェインの言葉を無視していればふと、そんなことを訪ねられた。

「クッキーが……」

 そう、怒りに任せて敵を倒しても落としたクッキーは戻ってこないのだ。

「残念ですがここは無事だったことを喜びましょう」

「しばらくお預けなのに……なあ?」

「なんですか?」

「床に落ちたクッキーはさすがに食べたらダメだよな?」

 オレの質問にガウェインが頭をかかえながら言った。

「……さすがに止めてください」

「だよな……」

 そしてオレも、そう思った。

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