5話 金色の鎧と聖なる剣を身に纏い【改稿版】
「まさかまたこの鎧を着ることになるとはな……」
ガウェインが訪ねてきて次の日の朝、クローゼットの奥底にしまいこまれていた勇者をやっていたときの鎧を引きずり出してくるとそれを眺めてボヤく。
「鎧はまだ取ってあったのですね」
そんなオレを見てガウェインは意外そうに言うけど
「そりゃさすがに捨てるわけにはいかないだろ」
勇者をやめるときに一瞬捨てようかとも思ったが、一応勇者として使ってきた鎧だから捨てていいものかと迷ったのと長年使っていた鎧だったこともあり少し愛着もあって一応取っておいたのだ。
その金色の鎧に身を通すと赤いマントを左肩側だけ羽織り肩当てとチェーンとベルトで止める。
それから髪を軽くワックスで整えてから最後に勇者だったときの愛剣であるエクスカリバーを腰に差した。
「しっかし相変わらず派手だな」
しっかりと着られているか姿見の前で最終確認をしながら頭をかいて呟く。
全身金色の鎧に差し色は赤、ワックスで整えられた自分の金髪すら今は眩しい。
「それはもちろん! 勇者様の装備なのですから」
「だけどダサいだろ」
「そんなことありません! 似合ってますし格好いいです! またアーサー様のこのお姿が見れるなんて……」
オレはこの格好に不服しかないけど、ガウェインが何でかとても嬉しそうだからまあいいだろう。
「よし! 向かうか!」
オレは最後にもう一度家の火の元と戸締まりを確認するとそのまま玄関扉に手を掛ける
「……ていうかお前そういえばどうやって来たんだ? まさか歩いてきた訳でもあるまいし……」
そして一度止まって大切なことを確認する。
オレ一人ならそれなりに早くヴァルトシュタイン王国にたどり着く術はあるけどチコ村と王国はそれなりに遠い。
王国直属の騎士がまさかわざわざノコノコ歩いてここまで来たわけじゃないだろう。
「ああそれなら、ギルドの事情通を通して馬車を預けてあります」
「それならいいな、歩いて行くって言われたらどうしようかと思っ……」
えっさえっさと歩いて行かなくていいことは大変ありがたい話だったがオレは途中で言葉を止める。
「どうかしました?」
ガウェインがいきなり黙ったオレを見て不思議そうに聞いてくるから
「ギルドに預けてあるってことは、一度ギルドによらないと行けないってことだよな?」
「はい、なにか問題が?」
結構直球で伝えたつもりなのにガウェインはまだわからないようだった。
「つまりオレはこの格好であいつらの前にでないといけないってことだろ」
この格好、とどのつまりは金ピカダサ装備でだ。
「問題はないのではないですか? 格好も雰囲気も違いますし誰もアーサー様をアッシュ様だとは気づかないと思いますが……」
「そういう問題じゃないんだよなぁ……バレないとしてもなんか気まずいんだよ」
バレる心配はそもそもしてない。
だっていつもオーラ消してたし、わざわざ変装みたいなことだってしていたわけだから。
気付かれるようなへまもしないけど、それでもアーサーモードであいつらの前に出るのはちょっと気まずいし恥ずかしい。
「そういうものなのですか?」
「そういうもんなんだよ……まぁ仕方ないから行くかぁ」
だけど今さらごねても仕方ない、諦めの早いオレは早々に腹をくくることにした。
家を出る時は特に布を羽織って顔を隠すことはしなかった。
何故ならアッシュの家からオレが出てきたのを見られたらどう説明するのか、なんて危惧は全く必要ないから。
というのも
「おやアッシュ……じゃないねぇ、今はアーサー様だね、なにかあったのかい?」
オレの家は少し村から外れたところにある、だから隣家はこのローラおばさんの家だけ。
そしてローラおばさんにはオレの正体がバレている。
ここに引っ越してきたときからオレは底辺冒険者に変装しているがなぜかローラおばさんには初めて会ったときにアーサーであると言い当てられてしまった。
最初はまぁ、焦ったがローラおばさんはなぜオレがアッシュを名乗りこんなことをしているのか少しも詮索することもなくオレをアッシュとして扱い、迎えてくれた。
だから隠す必要はないのでこのまま出てきたというわけだ。
一回なぜオレがアーサーであるとわかったのか聞いたことがあるが長く生きていればわかるようになってくるんだよと言って笑っていただけだった。
はっきり言って結構怪しい存在だけどかといって王が付けたオレへの見張りではないことは確かだ。
完璧な根拠とかがあるわけではないが三年間隣人として過ごしてきてそう確信している。
オレは人を見る目には自信があるし。
「アーサー様……」
ガウェインが心配そうにそっとオレに呟く。
おそらく、バレたと思ったのだろう。
「ガウェイン、ローラおばさんは元々オレの正体を知ってるだけだから大丈夫だ」
「あら!騎士様も一緒なのかい、おはよう」
「お、おはようございます」
そしてローラおばさんはガウェインにも全く動じずにいつも通り挨拶をしてくるからガウェインも豆鉄砲でも食らったようになりながらも何とか返事はする。
「で、アーサー様は一体どうしたんだい?」
「それが、ちょっと野暮用ができてしばらく家を空けます」
オレは経緯を軽く伝え、それから三年間の恩を形にするためにしっかりと頭を下げる。
「……そうかい、気をつけて行くんだよ!家は私が見とくからね!」
ローラおばさんはそんなオレの肩を叩いていつもの人当たりのいい笑顔を浮かべる。
「ありがとうございます! では行ってきます」
この人になら安心して家を任せられる、この件が落ち着けばまたオレが帰ってくる場所だから、オレはローラおばさんのおかげで後ろ髪を引かれることもなくその場を後にした。
オレはギルドに到着するとドアに手をかけて一度止まる。
「気はのらないが入るか……」
オレはもう一度覚悟を決めてからギルドの扉を開けた。
カランカランといつも通りの音をたて扉が開き喧騒が聞こえてくる。
だがその喧騒は、オレが入った瞬間に静まりかえった。
「え……あれ勇者様だよな」
「ああ間違いようがない、アーサー様だ」
「でもなぜこんな辺境の地にいらっしゃられるんだ……」
「待て、後ろはガウェイン様だ」
「勇者様に黒き盾だぞ、こんな辺鄙な土地に、そんな問題が起こってるのか……? 偽物じゃないのか?」
「いや本物だ、鎧の胸にヴァルトシュタインの紋章もある、それに、間違いようがないだろこの雰囲気で」
静まり返ったギルドでひそひそ話す声が聞こえる。
静か過ぎてその潜められた声すら嫌に大きく聞こえる。
とりあえずここは大きな混乱が起きる前に止めたほうがいいだろう。
下手に騒ぎになってからでは面倒なことになりかねない。
オレは声を大にして威圧感を込めて口を開いた。
「驚かせてすまない、オレ、アーサー・ヴァルトシュタインとガウェイン・シュヴァルツシルト二名は王の命により内密にチコ村の視察に来ていた、両名問題がないという判断によりこれより王都ヴァルトシュタインに帰国する、これは内密な視察だ、あまりことを大きくはしないように、この村の冒険者には優秀なものが多いようだ、これからもより精進してくれ!」
「「はっ!!」」
オレが最後に語気を強めて周りの士気を高めるように怒鳴る。
そうすればその場の冒険者達は全員立ち上がり右胸に拳を持っていき敬礼する。
「よし、行くぞガウェイン」
「はい!」
そしてそのままオレ達はギルドの奥に入っていった。




