4話 王からの依頼【改稿版】
用事を済ませたオレは外に出てガウェインと合流する。
「お前危ないだろ、もう少しで下手したらオレの正体バレてたぞ」
そして開口一番さっきの出来事の注意をする。
バレたらもう取り返しがつかないので本当に気をつけて欲しい。
「しかしどういうことですか!? 底辺だのモブだのと! しかもそれを聞いてなぜ怒らないのです!? 勇者アーサー様ともあろうものが!」
言われた本人よりもブチ切れているガウェインにオレは今日何度目かのため息をついてから口を開く。
「なぜって言われてもオレはもうアーサーじゃないし……」
「そうだとしても言われっぱなしでへこへこして騎士としての誇りはどうしたのですか!? それまで捨ててしまったのですか!?」
「いいんだよこれで、オレは底辺冒険者、騎士でももうないしな、誇りだのなんだのそういうのはもういいんだ、今オレはやりたいことをやってるだけだ、この3年間それでやってこれたし勢力争いとかそういうごたごたしたこととも無縁でオレは今が楽しい、勇者だったころには感じれなかった、味わえなかった感覚、しあわせだ、だからこれでいいんだよ、森から戻るときに説明しとけばよかったな、でもお前ももうオレはお前の上司じゃないしあんな怒る必要ないだろ」
そう、いつもバカにされて、簡単な依頼だけこなして、たまに輪に混ざって一緒に酒飲んだり、バカみたいな武勇伝聞かされて、手作りのクッキーをもらえる、生ぬるいこんな世界がオレにとってはとても、今のオレには心地いい。
でも、それを聞いた上でガウェインは少し間を置いてから少しつらそうに言った。
「……しかし私にとっては名前が変わろうとなにがあろうと貴方は私にとっての恩人です、そんな恩人を愚弄されたら騎士としては黙っているわけにはいかないのです」
ガウェインにも色々思うところがあるのだろう。
こいつは昔から人一倍騎士道精神も強かったから。
「そっか、じゃあ怒ってくれたのはありがとな、でもさっきも言ったがオレは今の生活が楽しい、ああいうのも新鮮だろ、だから怒らなくていい、これらオレのわがままだ」
それでも今の環境を壊してはほしくない。
「……わかりました」
「ごめんな、じゃあ家に行くか!」
オレの気持ちを汲んで折れてくれたガウェインの肩を元気付けるように一度ひっぱたくとそのまま今度こそ、家のほうへ歩きだした。
「ついたぞ! ここが今のオレの家だ」
「ここ、がですか」
オレの家に着くとガウェインはあからさまに驚いた顔をする。
「いいだろ? こじんまりしてて」
「……もうすこししっかりした家でもよかったのでは?」
「これぐらいが丁度いいんだって」
確かにオレの家はかなりおんぼろで、お世辞にも綺麗とは言えないけどオレはこの家を気に入っている。
無駄に広くも無駄に綺麗でもない、そこが逆にいい。
「そういうものなんですかね」
「お前にもわかるときがくるって、この良さが、ほら入れよ、この家に住むようになってから初めての客だ」
ガウェインは訝しげだったけど、いずれはまぁ分かるだろこの家の良さが。
「初めての客……いいのですか私なんかで」
「いいに決まってんだろ、ほら入れ」
初めての客、その言葉に軽く萎縮してしまったガウェインの背中を押して無理やり家のなかへ通す。
「はい、失礼します」
家に入るとオレは早々に剣を置き鎧を脱ぎ、だて眼鏡を外すとモブ感を出すためにわざとボサボサにしている髪の毛を軽く手でとかして、それから後ろでそんなに長くない髪を無理やり引っ付かんで縛って前髪はピンで止める。
その間家の中を見てぼーっと立っていたガウェインにも声をかける。
「お前も鎧脱いでゆっくりしろよ」
「は、はい!」
「晩御飯の準備するから鎧脱いだらくつろいでてくれ」
ガウェインが慌てて鎧を脱いでいる間にそれだけ言ってからキッチンに立つ。
「よしやるか!」
いつもは食事は軽く済ましてしまうことも多いがせっかく旧友が来ているのだから今日は腕を振るうとしよう。
そう意気込んでオレは腕まくりをした。
「よし! 待たせたな」
オレは最後の一品をところ狭しと皿の並べられたテーブルに無理やり追加する。
少し張り切りすぎて作りすぎてしまった感は否めないけどがまあいいだろう。
「……」
せっかくこいつのためだけに豪勢な料理を用意してやったのに、等の本人は何故か黙ったまま。
「どうした?」
それを不思議に思い聞きながら自分も宅につく。
全部うまそうに作れてると思うけど、人に披露するのはしばらくぶりだから腕が落ちたか?
「いや、こうしていると昔を思い出して……」
「あー、そういや昔はよくこうやって食卓をかこんだな」
並べられた飯を見ながら呟くガウェインにオレもつい昔のことを思い出してしまう。
円卓の12騎士とそれからあの人も、全員が揃って卓を囲んだのがつい昨日のことのように甦る。
「……やはり戻っては一一」
「やめろ、飯が不味くなる」
だけどそれはそれ、これはこれだ。
話を切り出そうとするガウェインに冷たく言い放つ。
「……すいません」
「……あー、もう! わかったからそんな暗くなるな!」
言い放ったのはオレなのに、すぐに折れたのもまたオレだった。
いつだってチビ達のそういう顔には弱い性分で、どうやらそれはそう簡単に変わらないらしい。
といっても今の見た目で言えばガウェインのほうが上にみられかねないのだけど。
「ということは……」
「戻るとは言ってないぞ、飯が終わったら話だけ聞いてやるってだけだ、飯食って話したら寝て起きて王国に帰って王にオレは戻らないと伝えろ、あと約束は守れともな」
オレの言葉に顔を明るくさせたガウェインに一応釘は刺しておく。
「はい! ではいただきます」
そしてわだかまりがなくなったガウェインは手を合わせるとそのまま飯に手を伸ばした。
「ごちそうさまでした、アッシュ様は昔から料理も得意でしたがさらに美味しくなっていました」
「それはどうも」
まぁそれはそれはよく食ったガウェインは最後にそんなおべっかを使う。
久しぶりに作ったから前ほど旨くなかったと思うけど、こいつの場合多分本心なんだろうな。
「では話を」
「やっぱ忘れてないか」
食器を全てシンクに入れて席に戻るとガウェインはすぐに会話を再開させる。
「当たり前です! では話させていただきます」
「聞くだけだぞ……」
ガウェインの勢いに押されながら聞く体制を取るとガウェインはふっと真剣な面持ちになり言い放った。
「ランスロットが、謀反を起こしました」
ガタンッ!
オレは椅子が倒れるのも構わずに立ち上がるとそのままテーブルに両手をついて身を乗り出す。
「……どういうことだ?」
それ程までにこれは、異常であり国にとっての緊急時代だった。
「ランスロットがアカツキを抜け王、いや王国に反旗を翻したのです」
「理由は、わかっているのか?」
反射的にオレはそう聞いたが、理由はなんとなく察しがついていた。
「……おそらくグネヴィア様のことが関係していると思われます、いや、確実でしょう、ルナからもランスロットについて謀反したものも多数いますそしてランスロットはアーサー様も狙っている、このチコ村にも火種が飛ぶかもしれないです、そして謀反したルナの団員、アカツキの一人であるランスロットと相対し止められるのはアーサー様しかいません! そこで王は契約を破ってでも私を貴方のもとへと送られたのです、ランスロットを止める、この王からのじきじきの依頼受けていただけますか?」
長々と説明され、答えを聞かれるまでもなくオレの答えは既に頭のなかで決まっていた。
「今日中に荷をまとめる、明日にはヴァルトシュタインに発つ」
「ということは!!」
オレの言葉にガウェインは顔を明るくさせる。
そしてオレは、そんなガウェインをしっかりと見据えて一度だけ頷く。
「ああ、ランスロットとグネヴィアが関係している以上これはオレが巻いた火種だ、自分でけりをつけなければならない、一時だがオレはアッシュという衣を脱ぎアーサーに戻ろう」




