だれが騎士は魔法を使えないなんて言った?
「はー、疲れた……」
オレはギルドに預けてあった馬車に乗り込むとため息をつきながらどかっと椅子に腰をおろした
「大丈夫ですか?でも流石ですね、3年のブランクを感じない演説でした、しかも内容は即興ですか?」
ガウェインがオレの向かいの椅子に座りながら言う
「まぁ勇者だったときのが染み付いてるんだろうな、内容は歩いてる途中で適当に考えた、どんな反応がおこるかなんて大体予想できたしな」
オレが3年前勇者を辞めたことはかなり身近な人達しか知らないことだ
建前上はオレは王国の城に駐在して城を守っていることになっている
だから視察に来たということにした
「しかしあれだけ人のことを愚弄してくる物達にあの言葉はいらなかったのではないのですか?」
「あの言葉?」
なんのことかわからず聞き返す
「あれですよ、優秀なものが多いとおっしゃったじゃないですか」
「あああれな、確かにあいつらは口は悪いが実力は実際ある、オレが見てきたかぎりだとな、なら普段馬鹿にされていようとなんだろうと私情を挟まず事実を伝えるべきだろう、違うか?」
「しかし一一」
「だーかーらー、そもそも気にしてないんだよ、なに言われようと!わかったか?」
「……はい」
少し不服そうだかわかってもらえたようだ
「しかし3年も経ったのに良い意味てお前は変わらないな、騎士としての誇りを大切にしている、オレなんかとは大違いだ」
「そんなことは……」
「こんながたいのいい男に照れられても嬉しくないぞー」
「っ!別に照れているわけでは!」
純粋なのも変わらないな、からかいがいのあるところも、今だにオレなんかを慕ってくれていることも……
しばらく馬車で走っていたところでふと思い出して荷物を漁る
「どうしました?」
「いや、たしかこんなかに入れといたと思ったんだけど……よし!あった」
オレは荷物の中から袋を取り出した
「ラッピングされたクッキー?」
「ああそうだ、ギルドで受付をしているセシルっていう子がたまにおまけでくれるんだよ、これが美味いんだよなぁ」
たまに貰えるこのクッキーは紅茶の茶葉が練り込んであって貰えた日は少し嬉しくなるくらい美味い
「あ、でもしばらくこのクッキーはこれでお預けかぁ……」
少し残念な気分になりながらそういえばセシルに何も言わずに出てきてしまったことに気づく、まぁただの冒険者と受付嬢という関係だがこの3年間仲良くしてもらったんだから一言ぐらい声をかけてこれば良かったなと少し思う
これからしばらくギルドに顔を出せなくなるから万が一にも心配なんてしてくれていたとしたら申し訳ない
そんなことを考えながらラッピングを開けてクッキーを一つ掴み取り出して口に放り込もうとしたときだった
ドオン!!
と音がして馬のいななく声とともに馬車が大きく揺れた
かなり大きく揺れたが馬車はなんとか倒れなかったようだ
「なんだったんだいったい、あ……」
「いったいなにが……なにやら外が騒がしいですね、私が様子を見に……」
ガウェインは最後まで言うことなく言葉を止めた
それはオレから殺気が漏れ出ていたからだろう
「ど、どうしました?」
恐る恐る聞いてくる
「クッキーが……」
「?クッキーが?」
「セシルから貰ったクッキーが……」
「クッキー……ああ」
そう、今の衝撃でセシルから貰ったクッキーを馬車の中でぶちまけてしまったのだ
「しばらく食えなくなるのに……」
「ショックなのはわかりますが一旦外に出ましょう、外が騒がしいです」
「……わかった」
そう言って渋々オレは馬車から降りた
「やっぱり勇者様の馬車だったぜ」
「あの方の占いは必ず当たるな」
外に出るとがたいのいい武装した男達に囲まれていた
ゆうに50人はいるだろう
「お前達は!」
ガウェインはこいつらが誰なのか知っているようだ
「知ってんのか?」
「はい、ランスロットについて反旗をひるがえしたルナの物達です、鎧の胸のエンブレムも王国のものからランスロットが新しく掲げたエンブレムに描き換えられています」
「そうか……」
「悪いが勇者様と黒き盾にはここで死んでいただく、我らがランスロット様とグネヴィア様の名のもとに!」
まとめ役であろうやつがそう宣言し剣を抜くと周りの奴らも次々に臨戦体制に入る
「アーサー様!ここは私が!」
ガウェインが剣を抜こうとするがそれを手で制する
「お前は下がってろオレ1人で十分だ」
「……わかりました」
オレが殺気に満ちているのを見て素直にガウェインは後ろに下がった
「俺たちを1人で相手にするつもりか……我らは元王国直属騎士団ルナだ!3年も戦線から退いていたお前1人で一一」
「ガウェイン、もう少し下がってろ、久しぶりだからうまく調整できるかわからない」
敵の言葉を遮ってガウェインにもっと下がるように促す
「!はい!」
ガウェインはこれからオレがなにをしようとしているのかを察したのかさらに後ろに下がる
「無視とはいい度胸だな、だがそれが命取りとなるのだ!かかれ!!」
号令とともに敵がかかってきた
オレは右手を軽く天に伸ばし叫んだ
「サンダーボルトッ!!」
その瞬間空が光り雷撃が敵の群れに降り注いだ
「ぐわぁ!!」
「がっ!!」
それぞれが断末魔をあげながら倒れていく
全員が倒れたのを確認してからオレは手を下ろした
「騎士が魔法を使うなど……」
唯一意識の残っていたリーダー挌が呟く
「いつ騎士が魔法を使えない何て言った?」
「くっ!いいか!我らレイクはランスロット様のご意志を現実のものもするために必ずお前を殺す!か、なら、ずだ……」
そこまで言うとそいつも意識を手放した
「流石の威力です、しかしこの世界では騎士が魔法を使うのは異例ですよ」
下がっていたガウェインが戻ってきて言った
そう、この世界では騎士は己の肉体のみで戦う、純粋なパワーを上げる系の魔法ぐらいは使えるものもいるが基本攻撃魔法等々は魔術師が使うものというのが常識だ
「まあな、こいつらはここらへんの警備団を呼んできて捕らえさせとくか」
「了解しました」
ガウェインがそう言うと後ろについてきていた馬車から出てきた者にそのつてを伝える
オレは自分達が乗っていた馬車の御者のほうに近づく
「大丈夫か?」
御者に聞く
「はい、っ!奴ら火薬を使ったようで」
「怪我してるな、腕を出せ」
「?はい」
不思議そうにしながら御者が火傷の跡がひどい腕をこちらへ出す
「ヒール」
その腕に手をかざして呟くとまたたくまに傷が治った
「!騎士様が癒術を!」
もはや説明はいらないと思うが癒術もまた騎士が使えるものではない、癒術師が使うものだ
「相変わらず型破りですね、なんでもありだ」
後ろの馬車のものに言伝てを終えたガウェインが戻ってきて言った
「ああ……」
「敵も倒したのになぜそんなに暗いのです?」
「クッキーが……」
そう、怒りに任せて敵を倒しても落としたクッキーは戻ってこないのだ
「残念ですがここは無事だったことを喜びましょう」
「しばらくお預けなのに……なあ、」
「なんですか?」
「床に落ちたクッキーはさすがに食べたらダメだよな?」
ガウェインが頭をかかえながら言った
「……さすがに止めてください……」
「だよな……」