金色の鎧と聖なる剣を身に纏いて
「まさかまたこの鎧を着ることになるとはな……」
クローゼットの奥底にしまいこまれていた勇者をやっていたときの鎧を引きずり出す
「鎧はまだ取ってあったのですね」
ガウェインが意外そうに言う
「そりゃさすがに捨てるわけにはいかないだろ」
勇者をやめるときに捨てようかとも思ったが一応勇者として使ってきた鎧だから捨てていいものかと迷ったのとずっと使っていた鎧だ、愛着もあって一応取っておいたのだ
その金色の鎧に身を通し赤いマントを左肩側だけ羽織り肩当てとチェーンとベルトで止める
髪を軽くワックスで整えてから最後に勇者だったときの愛剣であるエクスカリバーを腰に差した
「しっかし相変わらず派手だな」
姿見の前で最終確認をしながら言う
「それはもちろん!勇者様の装備なのですから」
「だけどダサいだろ」
「そんなことありません!似合ってますし格好いいです!またアーサー様のこのお姿が見れるなんて……」
オレは不服だがまあガウェインがなんでか嬉しそうだからまあいいだろう
「よし!向かうか!」
「はい!」
「ていうかお前どうやって来たんだ?まさか歩いてきた訳でもあるまいし……」
「ああそれならギルドに馬車を預けてあります」
「それならいいな、歩いて行くって言われたらどうしようかと思っ……」
オレは途中で言葉を止める
「?どうしました?」
ガウェインがいきなり黙ったオレを見て不思議そうに言う
「ギルドに預けてあるってことはギルドによらないと行けないってことだよな?」
「はい、なにか問題が?」
ガウェインはまだわからないようだ
「つまりオレはこの格好であいつらの前にでないといけないってことだろ」
「問題はないのではないですか?格好も雰囲気も違いますし誰もアーサー様をアッシュ様だとは気づかないと思いますが」
「そういう問題じゃないんだよなぁ……バレないとしてもなんか気まずいんだよ」
「そういうものなのですか?」
「そういうもんなんだよ……まぁ仕方ないから行くか」
オレは腹をくくった
家をでる時は特に布を羽織って顔を隠すことはしなかった
というのも
「おやアッシュ……じゃないねぇ、今はアーサー様だね、なにかあったのかい?」
オレの家は少し村から外れたところにある、だから隣家はこのローラおばさんの家だけだ
そしてローラおばさんにはオレの正体がバレている
ここに引っ越してきたときからオレは底辺冒険者に変装しているがなぜかローラおばさんには初めて会ったときにアーサーであると言い当てられてしまった
最初は焦ったがローラおばさんはなぜオレがアッシュを名乗りこんなことをしているのか少しも詮索することもなくオレをアッシュとして扱ってくれている
だから隠す必要はないのでこのまま出てきたというわけだ
一回なぜオレがアーサーであるとわかったのか聞いたことがあるが長く生きていればわかるようになってくるんだよと言って笑っていただけだった
かといって王が付けたオレへの見張りではないことは確かだ
根拠とかがあるわけではないが3年間隣人として過ごしてきて確信している
「アーサー様……」
ガウェインが心配そうに呟く
おそらくバレたと思ったのだろう
「ガウェイン、ローラおばさんは元々オレの正体を知ってるだけだから大丈夫だ」
「あら!騎士様も一緒なのかい、おはよう」
「お、おはようございます」
「で、アーサー様はどうしたんだい?」
「それが、ちょっと野暮用ができてしばらく家を空けます」
「……そうかい、気をつけて行くんだよ!家は私が見とくからね!」
「ありがとうございます!では行ってきます」
ローラおばさんとのやり取りを終えてからギルドに到着する
「気はのらないが入るか……」
オレは覚悟を決めてギルドの扉を開けた
カランカランといつも通りの音をたて扉が開き喧騒が聞こえてくる
だがその喧騒はオレが入った瞬間静まりかえった
「え……あれ勇者様だよな」
「ああ間違えないだろアーサー様だ」
「でもなぜこんな辺境の地にいるんだよ」
「後ろはガウェイン様だ」
「勇者様に黒き盾だぞ」
「本物だ、鎧の胸にヴァルトシュタインの紋章もある」
静まり返ったギルドでひそひそ話す声が聞こえる
ここは混乱を止めたほうがいいだろうと思い大きめの声に威圧感をこめて言う
「驚かせてすまない、オレ、アーサー・ヴァルトシュタインとガウェイン・シュヴァルツシルト二名は王の命により内密にチコ村の視察に来ていた、両名問題がないという判断によりこれより王都ヴァルトシュタインに帰国する!この村の冒険者には優秀なものが多いようだ、これからもより精進してくれ!」
「「はっ!!」」
その場の全員が立ち上がり左胸に拳をもっていき敬礼した
「行くぞガウェイン」
「はい!」
そのままオレ達はギルドの奥に入っていった