2話 実力の差【改稿版】
それはさかのぼること三年と少し前、オレは世界を脅かす魔王を討伐した。
そして魔王を倒したその瞬間からオレは勇者をやめた、国王とはそういう契約だったからだ。
そして魔王を倒した報酬としてこの田舎のなかのチコ村にこじんまりとした一軒家をもらい新しい名前とともに新生活を始めた。
そう、オレは自分から望んでこの底辺冒険者の地位にいるのだ、勇者をやめたオレにはもう国は干渉しないという契約もあって、だからこの三年間オレはやりたいことをやり平穏に暮らしてきた。
憧れのなんのしがらみもない生活を送ってきた、しかしその平穏が今壊されそうとしている。
「ガウェイン……国はもうオレに干渉しない約束だろう、オレはもう勇者でもないしアーサー・ヴァルトシュタインでもない、ただの底辺冒険者アッシュ・コナーだ、国なんて助けられないし助ける使命もない」
「し、しかし……」
しっかりと言葉にして伝えても、それでも引こうとしないガウェインにオレは今度は怒気を孕んで口を開く。
「……オレは怒ってるんだぞ、干渉しないという約束を国王は破った、オレの平穏な日常を犯そうとしている、これ以上言うならガウェイン、お前だとしても切り伏せる」
オレがそのまま剣に手をかけると焦った様子でガウェインが頭を振るう。
「先ほどのヘルハウンドの件で腕が落ちてないのは充分にわかりました、しかし貴方には三年というブランクがある、私はこの三年毎日欠かさず鍛練してきました、しかもその刃こぼれした手入れもしていない剣では一一」
「つまり、オレは勝てないって言いたいのか?」
ガウェインの言葉にオレは食いぎみに問い返す。
別に勝てないって煽られてキレたわけじゃない。
「そ、そうは言ってません!私ごときで勝てるとは思っていないです、しかしこの状況では貴方とはいえ苦戦するのではと」
そして、そんなガウェインにオレは呆れながら言い返す。
「ガウェイン……お前を鍛えたのはオレだ、だからこそ残念でしかたないな」
王国の騎士団にいたときにこいつを鍛えたのはオレで、だからこそ残念な部分はよく目についた。
「……何故です?」
「お前はオレの教えを何一つ覚えてないじゃねーか……わからせるにはこれが早いな、よし、構えろ、好きなところから打ち込んでこい! 殺す気でな」
少しだけ怪訝そうに聞き返してきていたガウェインもオレが本気なのを空気で察すると剣を抜いて構える。
王国の騎士、流石にそれだけで様になる。
「分かりました……では、参ります!!」
ガウェインはそのまま地面を蹴ったかと思うと一瞬で間合いをつめて横に一線剣を振るう。
オレはそれを見切って軽くかがんで避ける。
オレに当たらなかった刃はそこからも止まらずしっかりとオレを狙って振られ続けるけど、その剣先を最低限の動きで軽く避け続ける。
「っく!」
滲み出た声にガウェインの焦燥を感じて
そろそろ頃合いか、と内心で呟くと鍛えぬかれたガウェインの放った渾身の突きを受け止めた。
「そ、そんなまさか……」
唖然としたガウェインは一瞬、握る剣に込めた力和緩める。
それもそうだろう、ガウェインの剣を止めたのはオレの刃こぼれした剣ではない、手で、真正面から掴んで止めたのだ。
力を緩めたうえに唖然としたせいで反応の遅れたガウェインの腹をオレは体制を変えると軽く蹴り飛ばす。
ダンッ!
「……っかは!」
オレに蹴り飛ばされた勢いでガウェインは後方にあった木にしたたかに背中を叩きつけられ口から空気を溢す。
そして、手に持っていたガウェインの剣を適当に放り投げて、近づいて首筋に剣をあてた。
「チェックメイトだな」
「くっ! なぜ……」
悔しそうに歯を噛み締めるガウェインにとりあえず説明はしてやることにする。
「昔あれだけ教えただろ、敵を見た目、想像で強さを計るなと、ぼろぼろの鎧だろうと攻撃が当たらなければなんということもない、勇者やってたときは見た目も気にしないといけないからしっかりした鎧を纏っていたが、今だって一応建前で着てるだけだからぼろぼろても問題ない、剣だってそうだ、相手を無力化させてこれだけ間合いを詰めれば刃こぼれした剣でも殺せる、まぁ極論だけどな、教えただろ?」
言いながらオレは剣を鞘に戻す。
つまるところ実力さえ伴えば武器や防具の性能なんてそこまで気にすることでもない、ということ。
「そういえばそんな教えをいただいたことがありましたね、この三年でそんな大切なことを忘れてしまうなんて……でも鎧や剣は貴方にしかできないでしょう……」
それを黙って聞いていたガウェインは苦い顔をしながらボヤく。
「まぁそうかもな、ほら」
確かに極論ではあるからここまでのことは中々出来ないかもしれない。
それでも鍛練を積めばまぁ、誰だって出来るようになる。
オレは軽く肯定しながら地面に尻餅をついているガウェインに手を差し出す。
「……怒っているのでは?」
心底不思議そうにガウェインが問いかけてくるのでオレは笑いながら返す。
「国王の使いとして来たならそうだがお前は今オレに負けた、その時点でオレを連れてくなんて無理だとわかっただろ? なら旧友が遊びに来ただけだ、家に寄ってけよ、茶でもだす」
別に今回のことはガウェインにたいして怒りがあったわけでは全くない。
そもそも国王からの名なら騎士団に所属している以上断ることは出来ないし。
だからこそ久しぶりに会った旧友という関係だけで考えるなら別に会いに来てくれたこと自体は普通に嬉しいし。
「……全く、貴方という人は変わりませんね、いつだって言ってることが無茶苦茶だ」
呆れたように、それでいて嬉しそうなガウェインはそのままオレの手をとって立ち上がる。
「あ、そうだ、お前強くなったな、太刀筋が良くなってた、この三年間の努力は、ちゃんと伝わったぞ、後はその見た目で決める癖を直さないとな」
オレの部下の教育方針には上手く出来たところはしっかり褒める、アメとムチの使い分けというものがある。
実際にガウェインの太刀筋は鋭くなっていたし、今は上司じゃないけど伝えておく分にはまぁ、いいだろう。
「……ぼろ負けでしたけどね、でもそういうところも貴方らしい、変わっていなくて良かったです」
そんなオレの言葉を聞いてガウェインは少しだけ嬉しそうに呟く。
「お前もな、さ、行こうぜ!」
それを聞いてオレは軽く笑って頷いた。




