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1話 オレの名前は【改稿版】

ピピピピ ピピピピ

 目覚まし時計の音がする。

「んー……」

ピピピピ ピピ、ガガッ……

 目覚まし時計の置いてあるベットの横のサイドテーブルを何度かばしばしと叩くと音が止まった。

「ふぅ……」

 窓から射し込む暖かい朝の日差しを浴びて気持ちよくそのまま二度寝をしようとして、オレは叫びながら慌てて飛び起きた。

「やっべぇ! 今日は冒険に行く日だ!!」

 慌てて時計を確認すると時刻は既に11時を指そうとしている。

 オレの今日の予定では11時にはギルドの掲示板の前にいる予定だった。

 そのままベットから飛び降りると急いで最低限の身支度を整え、朝ごはんにとパンを一つ掴み家を飛び出した。

 残念ながらパンを焼いている時間はない。

「おやおはようアッシュ、また寝坊かい?」

 家を飛び出して駆け出そうとするとふと、洗濯物を干していた隣人に声をかけられた。

「ローラおばさん! おはようございます!」

「今日も冒険に行くんだろう?気をつけて行ってくるんだよ」

「はい! ありがとうございます!」

 急いでいるオレは軽く挨拶程度に言葉を交わしてそのままスピードを上げてギルドまで走った。


「はぁ……やっと着いた……」

 結構本気で走ったおかげで何とか予定時間に間に合ったオレはカランカランと音をたてながら鈴の付いたギルドの扉を押し開ける。

「そうそうシグのやつこの前マンドレイクと戦ってケガしたんだってな」

「俺そろそろドラゴンとか討伐しに行こうかなー」

「オーガ討伐の祝いだ!乾杯!!」

 一足、ギルドに入ればざわざわがやがやとあちこちから笑い声や話し声が聞こえてくる。

 だけどオレは特に誰かに話しかけるでもなく一直線に掲示板に向かうがやはりというか、いつも通りに途中で声をかけられた。

「おやおやユースレス、弱虫君のお出ましだぜ」

「毎日毎日飽きないねぇ」

「そろそろやめちまえば? 冒険者」

 いつも通りのことだがかけられる声は誹謗や中傷的な言葉だ。

 そしてこれもいつも通り、オレはそんな言葉にたいしてへらへら笑いながら答える。

「いやー、でも僕冒険好きなんです」

 そうオレが答えたとたん周りが一斉にどっと笑いだす。

「冒険が好きってお前のやれることなんて採取クエストくらいじゃねえか」

 そして誰かの声に反応してまた周りが笑う。

「いや、でもそろそろゴブリンくらい狩りに行こうかなと……」

 これは嘘、オレは今のところ魔物退治の依頼を受ける気はそもそもない。

「はあ? ゴブリン? ムリムリやめとけ、お前じゃスライムにも勝てねぇよ」

 さらに続く誰かの煽りで今日一番の爆笑がギルド内に響き渡る。

「装備だって底辺中の底辺じゃねえか! そんな底辺冒険者君に討伐なんて100年早いぜ」

「いや、1000年経っても無理だろ」

 こういうのは大体がやがはいると更に笑いが大きくなる。

 それにしても、いやあ酒が入ってるからといって毎度毎度よく飽きないなと逆に感心する。

 そう、オレはギルドに来るたびにバカにされる底辺冒険者だ。

 底辺、ユースレス、ナード、モブメガネ、等々色々な呼ばれかたがオレにはある。

 実際に魔物を倒しに行ったこともないしいつも受けるのは採取系のクエストや配達系のクエスト。

 元々この村の生まれでもないから余計にバカにしやすいらしい。

 でもそれを特に気にしたことはない、オレは今、自分のやりたいことを本気でやっているのだから。

 装備に関しては刃こぼれした剣にボロボロの防具と確かに底辺だ。

 だけどそれも特に不自由はしてない。

 装備なんて最低限あれば問題もないし。

 周りに合わせて軽く笑いながら掲示板の前まで行くと少し考えてから、今日の気分はこれだなと思い依頼書を剥がして受付に持っていく。

「あ、アッシュさん毎回止めれなくてすいません……」

 受付のセシルはあまり気が強いほうではないのにいつも心配しておどおどしながらでも周りを止めようとしてくれる。

「いや、全然大丈夫です、いつもありがとう、これよろしくお願いします」

 あんな屈強な奴ら相手に止めようとこんな華奢な少女がしてくれるだけで充分にすごいことだと思う。

 だからお礼を伝えて、それから剥がした依頼書を渡す。


「薬草の採取依頼ですね、はい! 受理しました」

 その会話を耳さとく聞いていた誰かがまた叫ぶ。

「さすが底辺! 薬草採取だとよ! そこら辺の花でも摘んでろよな」

 それを言った男はがははっという笑い声をあげながら酒をぐびぐび飲んでいる。

 酒は別に嫌いじゃないけど誰だって酒を飲めばいつもよりも気が強くなって下らないことでも笑えてしまうから、そこは考えようかもしれないな。

「アッシュさん……あまり気にしないでください、これ隣村で流行ってる病気に効く薬草の採取依頼ですよね、薬草を取ってきてくれることで苦しんでる人を減らすこともできますから」

 セシルは気を使ってそう言ってくれるけど

「全然気にしてないから大丈夫です、じゃあ行ってきます」

 オレは本当に気にしていないのでそれだけ返して騒がしいギルドを後にして、薬草の採取ポイントのある森へ向かった。


 村を出て森に入り三十分ほど歩くと少し開けた場所に出た。

「ここが採取ポイントかー」

 辺りを見渡すと今回の獲物である薬草がたくさん生い茂っている。

「さあて、始めますか!」

 オレは誰に言うでもなくやる気を込めるとしゃがみこんで鼻歌混じりに薬草を摘み始めた。

「平和だなぁ」

 この森は魔物など危険な生物は住んでいないのでのびのびと薬草を摘める。

 そんな平和がオレには嬉しかった。

 今までのオレの生活では手に入れられなかったものだから。

 

 それに気づいたのは薬草を摘みはじめてしばらく経ったときのことだった。

「……なにか来るな」

 呟いたのと同時に茂みの奥からすごい勢いで一匹の魔物が飛び出してくる。

 とっさに後ろにバックステップで下がるとヘルハウンドは今までオレのいた場所にすごい勢いで着地した。

「地面抉れてるじゃねーか……」

 その場の惨劇にぼそっと呟くが一番の問題はそこではない、そこで唸っている犬型の魔物はヘルハウンド、なぜ下級の魔物すら出ない森にヘルハウンドなんていう中級以上の魔物が出たかということだ。

 まぁ、思い当たるふしはひとつしかないんだけど。

 そんなことを考えている間にもヘルハウンドは体制を整えまたこちらへむかってくる。

「……しょうがねぇ」

 オレは腰にさしてあった刃こぼれのした剣を抜き軽く構える。

 下級も下級のスライムすら倒せないとギルドで言われているオレと中級の魔物ヘルハウンドとの対決、想像通り勝負は一瞬で決着がついた。

 オレの、勝利をもって。

 飛びかかってきたヘルハウンドをその場で足を軸に回転することで避けてそのままの勢いで剣でヘルハウンドの首を切り落とした。

 刃こぼれした刃で一度で首を落とせないならそれをカバーして二激入れれば良いだけの話。

 どさっ、と死体の落ちる音を聞きながら剣に付いた血を払ってから鞘に戻す。

 そして今度はオレは茂みのほうへ呼び掛けた。

「出てきたらどうですか?」

 オレがそう言うと一人の鎧を身につけたがたいのいい若い男が茂みの奥から出てくる。

「やはり気づいておられましたか」

 鎧の胸の部分には一目で分かるヴァルトシュタイン王国の紋章が刻まれている。

「王国の騎士様がなぜこんなところに?」

 オレは、問いかける。

「腕は落ちてないようですね、なぜって……貴方様を迎えに来たのです、国王からの命令で国王直々に依頼を頼みたいと」

 やっぱり、今ヘルハウンドをけしかけたのはこいつの仕業かと内心腹が立つ。

「なぜ僕なんかに国王様が、人違いですよ」

 あくまでアッシュを繕うオレに騎士は頭を抱えて唸りながら口を開く。

「私に敬語なんてやめてください、それに人違いなわけないでしょう! 国王は貴方様に一一」

 もうダメだ、聞いてられねぇ。

「もういいや、だからそれがおかしいって言ってんだ、魔王を倒した時点でオレは自由、そういう契約だっただろう、それはお前も知ってるだろ?」

 下らない長話にはそんなにずっとつきあっていられない。

 だから早々に話を遮る。

「ですが国王が……」

 同じ話をもたもた続けるばかりでこれではきりがないと諦めて、少しだけ威圧感を込めて口を開く。

「王国直属騎士団ルナを束ねるもの12騎士アカツキがひとり、黒き盾ガウェイン・シュヴァルツシルト」

「は、はい!!」

 オレの言葉に自ずと騎士の背筋がぴしりと伸びる。

「帰って国王に伝えろ、オレはもう誰の命令も聞かない、ただの一般人だ、契約は終了している、オレの平穏の邪魔をするな、いいな? 今のオレはただの底辺冒険者だ」

 これでもう良いだろう、そう思ったのにしばらくの沈黙ののちガウェインは、恐る恐る口を開く。

「し、しかしそうはいかないのです! 王国に危機が迫っている今頼めるのは貴方しかいない! 魔王を打ち倒し世界に平穏をもたらした伝説の英雄、我らアカツキの上に立つもの、勇者アーサー・ヴァルトシュタイン様!!」

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