実力の差
それはさかのぼること三年と少し前、オレは魔王を討伐した
そして魔王を倒したその瞬間からオレは勇者をやめた、国王とはそういう契約だったからだ
そして魔王を倒した報酬としてこの田舎のなかのチコ村にこじんまりとした一軒家をもらい新しい名前とともに新生活を始めたのだ
そう、オレは自分からこの底辺冒険者の地位にいるのだ、勇者をやめたオレにはもう国は干渉しないという約束もあった、だからこの三年間オレはやりたいことをやり平穏に暮らしてきた
憧れのなんのしがらみもない生活を送ってきた、しかしその平穏が今壊されそうになっている
「ガウェイン……国はもうオレに干渉しない約束だろう、オレはもう勇者でもないしアーサー・ヴァルトシュタインでもない、ただの底辺冒険者アッシュ・コナーだ、国なんて助けられないし助ける使命もない」
「し、しかし……」
オレは怒気を含めて言う
「……オレは怒ってるんだぞ、干渉しないという約束を国王は破った、オレの平穏な日常を犯そうとしている、これ以上言うならガウェイン、お前だとしても切り伏せる」
焦った様子でガウェインが言う
「先ほどのヘルハウンドの件で腕が落ちてないのはわかりました、しかし貴方には三年というブランクがある、私はこの三年毎日欠かさず鍛練してきました、しかもその刃こぼれした手入れもしていない剣では一一」
「つまり、オレは勝てないって言いたいのか?」
「そ、そうは言ってません!私ごときで勝てるとは思っていないです、しかしこの状況では貴方とはいえ苦戦するのではと」
オレは呆れながら言い返した
「ガウェイン……お前を鍛えたのはオレだ、だからこそ残念でしかたないな」
「……何故です?」
「お前はオレの教えを何一つ覚えてないじゃねーか……わからせるにはこれが早いな、よし、構えろ、好きなところから打ち込んでこい!殺す気でな」
オレが本気なのを空気で察してガウェインが剣を抜く
「わかりました……では、まいります!!」
ガウェインが地面を蹴ったかと思うと一瞬で間合いをつめて横に一線剣を振る
オレはそれを軽くかがんで避けた
そこからも剣は止まらず振り続けられている
その剣先を最低限の動きで軽く避け続ける
「っく!」
ガウェインの焦りを感じる
そろそろ頃合いか、とボソッと呟くと鍛えぬかれたガウェインの放った突きを止めた
「そ、そんなまさか……」
ガウェインは唖然としている
それもそうだろう、ガウェインの剣を止めたのはオレの刃こぼれした剣ではない、手で掴んで止めたのだ
唖然として反応の遅れたガウェインの腹をオレ軽く蹴り飛ばした
ダンッ!
「っかは!」
蹴り飛ばされた勢いでガウェインは後方にあった木にしたたかに叩きつけられた
手に持っていたガウェインの剣を適当に放り近づいて首筋に剣をあてた
「チェックメイトだな」
「くっ!なぜ……」
「昔教えただろ、敵を見た目、想像で強さを計るなと、ぼろぼろの鎧だろうと攻撃が当たらなければなんということもない、勇者やってたときは見た目も気にしないといけないからしっかりした鎧を纏っていたが、今だって一応建前で着てるだけだからぼろぼろても問題ない、剣だってそうだ、相手を無力化させてこれだけ間合いを詰めれば刃こぼれした剣でも殺せる、まぁ極論だけどな、教えただろ?」
オレは剣を鞘に戻した
ガウェインは苦い顔をしながら言った
「そういえばそんな教えをいただいたことがありましたね、この三年でそんな大切なことを忘れてしまうなんて……でも鎧や剣は貴方にしかできないでしょう……」
「まぁそうかもな、ほら」
そう言ってガウェインに手を差し出す
「怒っているのでは?」
不思議そうにガウェインが問いかけてくるのでオレは言った
「国王の使いとして来たならそうだがお前は今オレに負けた、その時点でオレを連れてくなんて無理だとわかっただろ?なら旧友が遊びに来ただけだ、家に寄ってけよ、茶でもだす」
「まったく、貴方という人は変わりませんね、言ってることが無茶苦茶だ、」
ガウェインが手をとって立ち上がる
「あ、そうだ、お前強くなったな、この三年間の頑張り、伝わったぞ」
「っ!……ぼろ負けでしたけどね、でもそういうところも貴方らしい、変わっていなくて良かったです」
ガウェインが嬉しそうに言った
それを聞いてオレは軽く笑いながら言った
「お前もな、さ、行こうぜ!」