10話 国民達への声明【改稿版】
「覚えているな?」
グネヴィアの名前と死というワードで昔のことを追想しているとふと、王が釘を刺すようにオレに問いかける。
「もちろんです忘れるわけがない、やはりそれが原因なのですね、しかしなぜ今になって?」
あの事件の後、さらに魔王軍との戦いは激烈化し、ランスロットとしっかり話し合うことも出来ずにその二年後魔王を倒し、オレは勇者を辞めた。
オレ自身もあの崖で起きたことは誰かに積極的に話すことはせず、なにか聞かれてもオレがグネヴィアを殺したのだとずっとそれだけを言ってきた。
それが事実でありそれは自身への戒めでもあったから。
だがあのときしっかりランスロットと対話していれば、今回の反乱は防げたのかもしれない。
そう思うと、話せなかった自分の弱さに嫌気が差す。
「それがわからぬのだ、ランスロットは突然牢の見張りをしていた衛兵と牢の中にいたモルドレットを殺害し、自身の直属の部下だったルナ多数と直属ではないルナもかなりの数を連れて謀反を起こした」
「……謀反を起こしたもの達の数はどれくらいなのでしょう?」
ランスロットが謀反した時点でモルドレットが生きているとは思っていなかった。
だが見張りの衛兵まで殺したとなればそれは、オレの知っているランスロットの人物像と大分かけはなれている。
だけど今一番に知るべきは謀反した人数、敵の数だ。
「10000人、といったところだろう」
「10000……それぐらいの数でしたらオレを呼ばなくてもアカツキがいればどうにかなるでしょう……他にもなにか起こっているのですね?」
オレを少し逡巡して、すぐに今回の件がそこまで簡単なものではないという事実に気付く。
ランスロットは昔から人望の厚いやつだったから10000というのは正直驚かなかった。
口も上手いから新しく入った団員達も上手く取り込めるだろうし、しかしその人数だったら数の利もこちらにあるしアカツキもいるこちらが有利なのは変わらない。
その程度でオレが呼び出される訳がない、何かあるのだ、オレがいないといけない何かが。
「やはり察しがいいな、そうだ、10000という人数は問題ない、しかしここからなのだ、ここから先はこの場にいるアカツキしかまだ知らない、箝口令を引いてある、このあと予定しているランスロットの謀反の発表のときにも国民には伝えないつもりだ」
アカツキの一人であるランスロットの謀反を公表した上でも隠さないといけない事実、自ずと緊張がその場に走る。
「……いったい、何があったのです?」
オレの問いに王は険しい顔で言い放った。
「この謀反、マーリンがランスロット側に付いた」
「マーリンが!? ランスロットはわかりますオレのせいだ、しかしなぜマーリンが?」
マーリン、それは王宮最高魔術師で魔術のオレの師匠だった人だ。
立場としてはアカツキより上、異色な存在でどちらかと言えばオレよりの存在だ。
そもそもマーリンとは旧知の仲。
ランスロットと特段親しかったわけでもなく謀反する理由に全く検討がつかない。
「……マーリンの謀反の理由は未だわからぬ、だがお主を呼んだ意味はわかったであろう?」
「はい、マーリンが付いたとなればアカツキとて荷が重いでしょう」
オレは王の台詞にすぐに頷いて見せる。
これでわかったことがある。
レイクと名乗った奴等はあの方の占いと言っていた、それはマーリンが占いあの場にオレが来ることがわかっていたからこその待ち伏せだったのだろう。
マーリンは王宮最高魔術師であり、占いの専門家でもある、そのマーリンにかかればオレの居場所なんて簡単に炙り出せてしまう。
あと、オレが呼ばれた理由もだ。
そこら辺のルナは勿論だが相手がマーリンとなればアカツキでも遅れを取るだろう。
「話がどんどん進み申し訳ないが、このあと国民にランスロットの謀反とその討伐をお主が任されたということを発表してほしい」
「……しかし、ランスロットが謀反したのはオレのせいでしょう」
発表の場をオレが預かるのに特に不満はない。
たがそもそものランスロットの謀反に関してはオレがちゃんと話さなかったせいで起きた事で、両手離しで責める気にはなれなかった。
それが甘いのだと、分かっていても。
「だが王国に反旗を翻した今奴は敵だ、モルドレットは仕方ないとしてもその時に関係ない衛兵も殺している、国にも敵兵を送ってきている、それはもう見過ごせない領域だ、勇者であるお主が国民の前で宣言してくれれば国民も少しは安心するだろう、複雑な気持ちになるのはわかるがここはひとつ頼まれてくれ」
王はそう言いきるとまた頭を下げる。
こういうところの割りきりの早さにはいつも感心するけど、きっと一国を納めるのならそれくらい気丈じゃなければ務まらない仕事なのだろう。
「……わかりました、ではオレが声明する準備をしてください」
ここでオレがごねてもこの王なら別の手段でオレを卓に座らせようとするだろう。
永い付き合いだからそれはよく分かる。
だからこそオレも、覚悟をきめて立ち上がった。
しっかりと現実と向き合うために。
オレが声明する場はすぐに用意された。
城の周りに国民が集められ、オレは城のバルコニーに出ていく。
「なにがあるのかしら?」
「アーサー様だ! やはりあの事か?」
「お久しぶりに我らの前に顔を見せてくれたが相変わらず凛々しいお方だ」
オレがバルコニーに立つと一斉に国民たちがざわつき始める。
オレがアーサーとして国民の前に立つのは三年ぶりの事だから当たり前の反応だ。
オレは魔法拡声器は使わずに自分の声で語りかける。
「国民達よ! 久方ぶりに顔を見れ皆元気そうでオレは嬉しく思う! 皆のなかで噂になっているであろうことだがランスロットの謀反は事実だ! ランスロットはヴァルトシュタイン王国に反旗を翻した!!」
「やっぱり!」
「ランスロット様が……」
「どうしたらいいんだ!」
オレの声明を聞いた国民達は想像通りがやがやと騒ぎ始める。
それ程までにアカツキから謀反者が出るというのは異常事態なのだ。
モルドレットの一件があってから余計に敏感になっているところに今度はランスロットの謀反。
しかもランスロットはアカツキの中でも民に寄り添う側の人間だったから余計だろう。
「ルナからも10000人ほど謀反者がでた、だが安心してほしい! 勇者アーサー・ヴァルトシュタインの名に懸けてこの国をまた守ると誓おう!!」
「10000も……だがあの方がああ言ってくださるだけで」
「ああ、なぜが安心ができる」
「魔王軍との全面戦争のときだって国に被害を出さなかったじゃないか!」
「信じてもらえるだろうか?」
オレは最後に国民達に問いかける。
そして呼応するように国民達が次々に叫びだす。
「当たり前です!」
「我らがアーサー様の言葉を信じない訳がない!」
「勇者様が言ってそれが破られたことがあったか?」
国民達の反応が嬉しい反面内心では辛い部分も多かった。
オレは誓ったのに守れなかったことがある、しかもそれが今の現状を作っている。
言わばすべての現況がオレだと言ってもいい。
それにオレは既に国民達を騙している存在だ。
オレはもう三年間も、国を守ることもせずにずっと底辺冒険者をやっていたのだから。
厚い信頼というものは、時としてその信頼自体が心を刺し貫く武器になる。
だがそれを表に出すわけにはいかなかった。
今のオレは、アッシュではないから。
「ありがとう……だが用心に越したことはない、兵士の城下町の警備を強化する、必ず守る! オレからの声明は以上だ! ではまたこの国が平穏を包まれたときまたこの場に立とう!」
オレは国民達の歓声を浴びながらバルコニーを後にした、逃げるように。
何度も言うが本当はこんなことを言える立場ではないのだ。
だが今のオレは腐っても勇者だ、自身の気持ちにはしっかりと蓋をしなければいけない、全てがオレのせいだとしてもそれは変わらない。
ダメだ、気持ちがぶれている、グネヴィアのことを忘れたことは勿論ない。
だけど、ずっとしっかり向き合うことはしてこなかった。
そのせいで揺れているのだろう。
だがグネヴィアが愛したオレは勇者として国民を守るオレだ、声明を終えて国王の元に戻る前にもう一回気持ちを引き締め直す。
そして、王の前に戻ると開口一番オレは言った。
「今回の謀反はランスロットを後ろで操っている首謀者がいる」




