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8話 あの日の後悔【改稿版】

 五年と少し前、オレがまだ勇者をしていた頃、世界を救う二年前、そう忘れもしないあの日、オレは恋人を"殺した"


5年前


「ねぇアーサー」

「どうしたグネヴィア?」

「今日も鍛練?」

「ああ、今日はガウェインに稽古をつけてやることになってるんだ」

「もうっ! 毎日毎日鍛練とか稽古とかばっかじゃない」

「仕方ないだろ? 魔王軍の勢力もどんどん増してる今、できるだけ騎士として勇者として強くならないと」

「また勇者、そう言って私のことはずっとほっとくの? 私と勇者様としての使命どっちのほうが大切なの?」

 グネヴィアはぷくりと頬を膨らませながらそんなことを聞いてくる。

「そういうわけじゃ……どっちって言われても……」

 そしてオレは、即答出来ずにただ言い淀んでしまう。

 そうするとグネヴィアはフフッと笑って言った。

「うーそ、ごめんね意地悪言って、少しからかってみただけ」

「グネヴィア……」

「ごめんって、ほんとアーサーは可愛いね」

「可愛いって……これ以上からかわないでくれ」

「これはほんと、可愛いんだもん、誉めてるんだよ?」

「男に可愛いは誉められてる気がしないな」

 オレは苦笑いしながら言葉を返す。

 男なのに可愛いって言われても威厳がないだけだ。

「そう? アーサーは可愛いけどそれよりもっとかっこいいとも思ってるよ?」

「それはうれしいことだな、愛しの人にかっこいいって思ってもらえてるなら」

「うん、かっこいい、人のことを思いやれるのも、でも一番は勇者として頑張ってるところがかっこいい」

「そうか、ありがとう」

「でも無理はしないでね」

「ああ、わかってる」

「あ、あと、勇者様なんだからどっちが大事か聞かれたら私じゃなくて勇者様としての使命、国民を守ることを優先しなきゃ」

 グネヴィアはオレの鼻先に人差し指をあてながら笑って言った。

 それはまるで軽口みたいだったけど、オレはそれを笑っては流せなかった。

「そ、そんなこと言えるわけないだろ! オレはグネヴィアをーー」

「それじゃダメだよ、もしこの先私か国かを天秤にかけることがあったら国を守るって即決できなきゃ、勇者様でしょ?」

 グネヴィアはまたそう言って、笑う。

 オレはなにも、言い返せなかった。

 グネヴィアの言うことは正しい、でもオレにははいそうですねと頷く度胸も、器量もなくて。

 もしかしたらそう、この時点でグネヴィアはこの先起こるであろうことを察していたのかもしれない。

 だけど、今さらなにを後悔しても時間が巻き戻るなんてことはありえない。

 例え魔法を使ったとしても。


「さっ、ガウェインが待ってるんでしょ? 早く行ってあげなきゃ! 今日も頑張ってね、勇者様!」

 グネヴィアは準備を終えたオレの額に軽くキスを落とす。

「ああ、行ってくる」

 オレも同じようにキスを返して、それから訓練所へと向かった。


「待たせたなガウェイン」

 オレは訓練所に入るとガウェインに声をかける。

「アーサー様! 本日は稽古をつけてくださるということでありがとうございます!」

「ああ、じゃあ始めるか!」

 いつもの日常、いつだって事件はそんなときに起こる。

 ガウェインとの稽古を初めて三時間ほど経ったときだった。

 バンッ!とすごい音をたてて訓練所の扉が開けられた。

「アーサー様!!」

「どうした、ランスロット」

 慌てて入ってきたのは肩で大きく息をしているランスロットだった。

「グネヴィア様がっ……グネヴィア様が!」

「グネヴィアがどうした! 落ち着いて話せ」

 ランスロットの口からグネヴィアの名前が出て、オレは自ずと額に脂汗が滲んでいた。

 そのときから、既に嫌な予感はしていたから。


 ランスロットから聞いた話はこうだった。

 グネヴィアが王国直属騎士団ルナのアカツキの一人であるモルドレットにより連れ去られたとのことだった。

「何でモルドレットが……どういうことだ……?」

「わかりません、しかしモルドレットが連れ去ったのは確実です、目撃者が多数います、それと……負傷者も……」

「負傷者……?」

 ランスロットが口ごもりながら言った負傷者という言葉に反応する。

「はい、白昼堂々グネヴィア様を連れ去りその時に毒を撒いたようです……」

「……被害はどれくらいだ?」

「分かるかぎりですが城内だけで数十人は負傷しています、さらに城下町にも同じ毒が撒かれたようで被害は広がっています」

「モルドレット……目的はなんだ?」

 グネヴィアを連れ去っただけに留まらず民まで巻き込んだ毒による無差別的な攻撃、モルドレットの意図が全く理解できないオレは頭を悩ませた。

「それが、モルドレットの部屋の机にこんなものが」

 だけど、そう言ってランスロットが取り出した紙片で状況は一変することになる。

「なんだこれは?」

「モルドレットからアーサー様に宛てての手紙のようです、便箋にアーサー様以外が中を見たら被害が拡大するだろうという主旨のことが書かれていたのでまだ誰も中は見ていません」

「わかった……貸してくれ」

 オレはランスロットから紙片を受け取るとすぐに開いて中を読んだ。


 内容は簡潔に言えばこうだ。


 今の戦況を考えて自分は魔王軍に降る、その手土産にオレの首を持っていく、毒は自身の独自の調合だから解毒剤の作り方は自分しか知らない、オレひとりで城下町の近くの海に面する崖まで来い、剣を持ってきたり他の人間を連れてきたら解毒剤の作り方を書いた紙は燃やす。

 グネヴィアは人質だ、読んだらこの紙は燃やせ。

 そう、書かれていた。


「くそっ……!」

 オレは手紙を力任せにぐしゃぐしゃに丸めると炎魔法で手紙を燃やす。

「なにをなさるのです!?」

 オレの突然の奇行に勿論見ていたランスロットは慌てるが

「落ち着け、王国直属騎士団ルナおよびアカツキのものは城内の癒術師達とともに負傷者の介助を」

 オレの頭の中はそれどころではなくて、無理やり自分の中の騎士としての使命を奮い立たせながら指示を出した。

「待ってください! モルドレットはどうするのです!? グネヴィア様は!?」

 それでも納得のいく筈のないランスロットは怒鳴る。

「それはオレが1人で対処する、ルナはもちろんだがアカツキも連れていかない」

 オレは、あくまで冷静さを演じながらランスロットを言葉で突き放す。

「なぜです!! せめて自分だけでも連れて一一」

「ダメだ! モルドレットとグネヴィアと解毒剤はオレがどうにかする、一人でだ」

「しかし!」

「これは命令だ、早く負傷者の介助につけ」

 このままでは埒が明かない、そう判断してわざと、強い言葉を選んだ。

「……わかりました、アーサー様がそうおっしゃるのでしたらなにか理由があるのでしょう、しかし、必ずグネヴィア様を無事連れ帰るとお約束ください!!」

 オレの言葉にやっと折れたランスロットはそれでも真っ先にグネヴィアの無事を心配する。

 薄々気づいてはいたがやはりランスロットはグネヴィアのことを好きなのだろうとその時疑念が確信に変わった。

 オレは今でも思う、なぜもっと別の方法を考えなかったのか、なぜ自分の力を過信してしまったのか。

「わかった、グネヴィアのことも国民のことも責任を持ってオレが守ろう!!」

 なぜこんな言葉を軽率に言ってしまったのか、今だにそう考えずには、いられないのだ。

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