オレの名前は
ピピピピ ピピピピ
目覚まし時計の音がする
「んー……」
ピピピピ ピピ
目覚まし時計のあるであろうベットの横のサイドテーブルをばしばし叩くと音が止まった
「ふぅ……」
暖かい朝の日差しのなか気持ちよく二度寝をしようとして慌てて飛び起きた
「やっべぇ!今日は冒険に行く日だ!!」
慌てて時計を確認すると時刻は11時を指そうとしている
オレの今日の予定では11時にはギルドの掲示板の前にいる予定だった
急いで身支度をすると朝ごはんにとパンを一つ掴み家を飛び出した
「おやおはようアッシュ、また寝坊かい?」
家を飛び出すと洗濯物を干していた隣人に声をかけられた
「ローラおばさん!おはようございます!」
「今日も冒険に行くんだろう?気をつけて行ってくるんだよ」
「はい!ありがとうございます!」
軽く挨拶程度に言葉を交わしてオレはギルドに走った
「はぁ……やっと着いた……」
カランカランと音をたてながら鈴の付いた扉を開ける
「そうそうシグのやつこの前マンドレイクと戦ってケガしたんだってな」
「俺そろそろドラゴンとか討伐しに行こうかな」
「オーガ討伐の祝いだ!乾杯!!」
一足ギルドに入ればざわざわがやがやとあちこちから笑い声や話し声が聞こえてくる
オレは特に誰かに話しかけるでもなく掲示板に向かうがやはり途中で声をかけられる
「おやおやユースレス君のお出ましだぜ」
「毎日毎日飽きないねぇ」
「そろそろやめちまえば?冒険者」
いつも通りのことだがかけられる声は誹謗や中傷的な言葉だ
オレはへらへら笑いながら答える
「いやー、でも僕冒険好きなんです」
そう答えたとたん周りが一斉にどっと笑いだす
「冒険が好きってお前のやれることなんて採取クエストくらいじゃねえか」
また周りが笑う
「いや、でもそろそろゴブリンくらい狩りに行こうかなと……」
「はあ?ゴブリン?ムリムリやめとけ、お前じゃスライムにも勝てねぇよ」
今日1の爆笑が聞こえる
「装備だって底辺中の底辺じゃねえか!そんな底辺冒険者君に討伐なんて100年早いぜ」
「いや、1000年経っても無理だろ」
がやがはいると更に笑いが大きくなる
いやあ酒が入ってるからといって毎度毎度よく飽きないなと逆に感心する
そう、オレはギルドに来るたびにバカにされる底辺冒険者だ
底辺、ユースレス、ナード、モブメガネ、等々色々な呼ばれかたがオレにはある
でも特に気にしたことはない、オレは今自分のやりたいことをやっているのだから
装備に関しては刃こぼれした剣にボロボロの防具と確かに底辺だ
だが特に不自由はしてない
周りに合わせて軽く笑いながら掲示板の前まで行くと少し考えてから
今日の気分はこれだなと思い依頼書を剥がして受付に持っていく
「あ、アッシュさん毎回止めれなくてすいません……」
受付のセシルはあまり気が強いほうではないのにいつも心配しておどおどしながらでも周りを止めようとしてくれる
「いや、全然大丈夫です、いつもありがとう、これよろしくお願いします」
そう言って依頼書を渡す
「薬草の採取依頼ですね、はい!受理しました」
その会話を聞いていた誰かが叫ぶ
「さすが底辺!薬草採取だとよ!そこら辺の花でも摘んでろよな」
それを言った男はがははっという笑い声をあげながら酒をぐびぐび飲んでいる
「アッシュさん……あまり気にしないでください、これ隣村で流行ってる病気に効く薬草の採取依頼ですよね、薬草を取ってきてくれることで苦しんでる人を減らすこともできますから」
セシルが気を使ってくれている
「全然気にしてないから大丈夫です、じゃあ行ってきます」
そう言ってオレは騒がしいギルドを後にして薬草の採取ポイントのある森へ向かった
村を出て森に入り30分ほど歩くと少し開けた場所に出た
「ここが採取ポイントかー」
辺りを見渡すと今回の獲物である薬草がたくさん生えていた
「さあて、始めますか!」
オレはしゃがみこんで鼻歌混じりに薬草を摘み始めた
「平和だなぁ」
この森は魔物など危険な生物は住んでいないのでのびのびと薬草を摘める
そんな平和がオレには嬉しかった
それに気づいたのは薬草を摘みはじめてしばらく経ったときのことだ
「……なにか来るな」
そう呟いたのと同時に茂みの奥からすごい勢いでヘルハウンドが飛び出してきた
とっさに後ろにバックステップで下がるとヘルハウンドは今までオレのいた場所にすごい勢いで着地した
「地面抉れてるじゃねーか……」
ぼそっと呟くが問題はそこではない、なぜ下級の魔物すら出ない森にヘルハウンドなんていう中級以上の魔物が出たかということだ
まぁ思い当たるふしはひとつしかない
そんなことを考えている間にもヘルハウンドは体制を整えまたこちらへむかってきた
「……しょうがねぇ」
オレは腰にさしてあった刃こぼれのした剣を抜き構えた
下級も下級のスライムすら倒せないとギルドで言われているオレと中級のヘルハウンドとの対決、想像通り勝負は一瞬で決着がついた
オレの勝利をもって
飛びかかってきたヘルハウンドをその場で足を軸に回転することで避けてそのままの勢いで剣でヘルハウンドの首を切り落とした
どさっ、と死体の落ちる音を聞きながら剣に付いた血を払ってから鞘に戻した
オレは茂みのほうへ呼び掛けた
「出てきたらどうですか?」
オレがそう言うと一人の鎧を身につけたがたいのいい若い男が茂みの奥から出てきた
「やはり気づいておられましたか」
鎧の胸の部分にはヴァルトシュタイン王国の紋章が刻まれている
「王国の騎士様がなぜこんなところに?」
オレは聞く
「腕は落ちてないようですね、なぜって……貴方様を迎えに来たのです、国王からの命令で国王直々に依頼を頼みたいと」
やっぱり今のヘルハウンドこいつの仕業かと少しイラッとする
「なぜ僕なんかに国王様が、人違いですよ」
騎士が頭を抱えて言う
「私に敬語なんてやめてください、それに人違いなわけないでしょう!国王は貴方様に一一」
もうダメだ
「もういいや、だからそれがおかしいって言ってんだ、魔王を倒した時点でオレは自由、そういう契約だっただろう、お前も知ってるだろ?」
長話にはつきあっていられないので話を遮った
「ですが国王が……」
きりがないと思い威圧感を込めて言う
「王国直属騎士団ルナを束ねるもの12騎士アカツキがひとり通称黒き盾ガウェイン・シュヴァルツシルト」
「は、はい!!」
「帰って国王に伝えろ、オレはもう誰の命令も聞かない、ただの一般人だ、契約は終了している、オレの平穏の邪魔をするな、いいな?今のオレはただの底辺冒険者だ」
しばらくの沈黙ののちガウェインが恐る恐る話し出した
「し、しかしそうはいかないのです!王国に危機が迫っている今頼めるのは貴方しかいない!魔王を打ち倒し世界に平穏をもたらした伝説の英雄、我らアカツキの上に立つもの、勇者アーサー・ヴァルトシュタイン様!!」