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吹奏楽コンクール

作者: さゆみ

咲歩の場合。

彼女はユーフォニアムを抱えると、個人練をしようと階段の踊り場へ向かった。


彼女はよく練習態度が悪いといわれていた。


匿名の質問箱に書かれてたから

実際誰が書き込んだかはわからないが、

少なくとも誰かにそう思われているのは確かだ。


そんなこともあり、コンクールも迫ったこの時期。

彼女は態度を見直し改めようとよく個人練をしていた。


それが本当に効果があったのかは知る由もないが、

反省しないよりましだったはずだ。


クラの人たちみたいにストイックになれたらなぁと、

クラリネットの人たちを少し羨ましく思っていた。


そんなクラリネットやサックス、フルートといった木管パートには

やはり本気で目指している生徒も多かった。



そんな温度差ありまくりなうちの学校の吹奏楽部は

一応県大会出場という目標があるが、それも曖昧になってしまっている。

自分はどこまで目指せばいいのか、そう迷っていたある日の夜。


私はトランペットの腐れ縁幼馴染のことをふと思い出した。

そいつは昔からの仲でいろいろと言い合っては仲直り、

とかを延々と繰り返してきたやつだ。


正直あいつが苦手だった。

そして尊敬していた。


あいつはかなりうまい。

というかめちゃくちゃうまい。


金管バンドの部長だってあいつに負けてなれなかった。

そのくせずっと夢だった部長がやるドラムメジャーをあいつは放棄した。


代わりになった副部長(現クラリネット)にも、恨みしかなかった。


みんなみんな


小学校でも中学でも


頑張ってたのに。


死ぬほど、狂いそうなほど、



頑張っていたのに…!!



人間不信だった、その時と今との罪悪感。

今しっかり県を目指せていないという実感。

気持ち悪くなるまで練習してた人だっているのに。



その時、咲歩は久々に部活のことで泣いた。


昨年のコンクール以来約一年ぶりのことだった。


悔しさ。寂しさ。申し訳なさ。

全てのマイナスな感情が混ざり合って、泣いた。


本当に記憶が飛んだような心地だった。


自分何のためにユーフォ続けてきたの?

ほんとに県大会行きたいの?

吹部で高校選べるの?


自分自身が怖かった。

自分自身が消えてしまう気さえした。

いっそのこと消えてしまいたかった。

翌朝彼女は冷たかった的な展開期待していた。



結局翌日以降も部活へ行った。

くそほど苦しい部活だった。


それでも、泣いた時の感情を思い出し

どんな時より集中することができた。




そして今日が来た。



今までのこの思い、忘れない。



真っ黒になった楽譜の書き込み。



空白に書かれた低音メンバーからのメッセージ。



みんなの思いが詰まったコンクール。



私も精いっぱいの力を出し切る。




さあ、行こう!




「課題曲二番。

 自由曲は、失わざるべき記憶

 ~1945年8月6日~(原爆ドームより)。

 指揮は…」


先生の指揮棒が上がる。


振り下ろされた瞬間、私たちは、始まる。

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