ネカマですか?ネナベですか?
リアルの友人から誘われて、ファンタジーMMOを始めた。キャラ作成する時にいつも思う。なんで性別は男と女しかないんだろう。せめて性別が関係ない種族があればいいのに。職業は攻撃力があれば成長早そうだから魔法使い、名前はカレーのスパイスから採りカルダモンにした。
ログインして教えられた集合場所へ向かう。
「あれ?女性キャラじゃないの?◯◯さんのキャラ楽しみにしてたのに」
「ナンパが面倒だから」
理由の半分ではあるから嘘じゃない。もう半分はリアルでも我慢して女性を演っているのに、ネットの中くらい素で居たいからだ。
「拾ったけど着れない装備あげようと思ったのに」
「いいよ、装備を強くしていくのも楽しいし」
「じゃ、レベル上げ行こうか。このままじゃパーティー組めないし」
「よろしく!」
友人の使うキャラにはエネミーを貼り付けたままでも自然回復で間に合うくらいの雑魚を狙ってレベリングする。たまにターゲットが自分に移って瞬殺される。チャットで会話しながらそんなことをして2時間後、みんな明日も仕事なので解散する。
翌日、ログイン時間が合わないのでソロで狩る。まだ弱くて1体倒すのにも時間は掛かるし、よく死ぬけど、デスペナより入ってくる経験値はまだ多いからペイは出来てる。コツコツ貯めて、ある程度強くなったら、野良パーティーを募集している広場で低レベルパーティーに参加する。
友人達とはレベルが合わないし、レベリングに付き合わせるのも悪いので、野良パーティーに参加する事が増え、よく一緒になるメンバーとつるむようになった。
仙台在住の戦士のショウと軽戦士のアルバロ、この二人はリアルでも友人だそうだ。それと福岡在住の僧侶のフアナと私だ。
街の外れに集合場所を決めて、ある程度メンバーが集まるまで駄弁り、3人くらい集まったら狩に行く。フアナが来なかった時のために、僧侶も育てた。
会社から帰るとログインしながら夕飯を食べ、途中休憩がてらシャワーを浴びて、寝る間際までMMOで遊ぶ。休日になると、用が無い限りほぼログインして遊んでた。週の2/7も一緒にいる計算だ。
それくらい一緒にいると、二ヶ月経つ頃にはショウとフアナが付き合い始めた。初々しいやり取りを微笑ましく思いながらアルバロと一緒に揶揄ったりもした。
二月が経ち、ゴールデンウィークに合わせて、フアナが大阪に行ってショウとアルバロと会うことになった。もちろんメインはショウだろうけど。自分も誘われたが、男として通っていたし、それを崩して面倒なことになりたくなかったのもあり、用事があるからと断った。実際にリアルでの約束もあったのだが。
ゴールデンウィークが終わって2週間くらいは、もの凄くラブラブな雰囲気をばら撒いていたので、「このままくっ付いてしまえ、リア充め!」とも思っていたが、すぐ仲直りをするもののケンカをする事が多くなった。その頃からショウにはフアナの惚気とあまり干渉されたくないと贅沢な悩みを、フアナにはショウが最近冷たいとの不満を、アルバロには二人から愚痴を聞かされたという同志の愚痴を聞かされた。それぞれにそれぞれの言い分があり、それらを少しづつアドバイスに混ぜながら、うまくまとまればいいのにと話に付き合った。
そのうち、ケンカは長く続くようになり、別れるだのどうだのと言った話になった。正直、ショウよりアルバロの方が仲間思いのお買い得物件だよと思いながら。
フアナから呼び出されたのはそんな頃だった。
「カルさん、話があるんだけど」
個別チャットで話しかけられた。アルバロからは愚痴より心配する言葉を聞く頻度が増えていたので、別れます宣言かと思った。
「もしよかったら、私と付き合ってください」
あー、本当にごめん。うまく男になれていたことを喜びつつ、結局中途半端な自分を再認識した。生物学的か、せめて戸籍上だけでも男だったらなぁ。リアル割れしたら確実に傷つけるし、隠しおおせるかを考えると、北海道から大阪へ乗り込むくらいの行動力は侮れない。
「ごめんなさい。ほかの人には内緒にして欲しいのですが、生物学上ネナベなんです。」
フアナからの回答は1分半後だった。
その2週間後。その頃にはショウとフアナはたまにしかログインしなくなっていた。たまり場でたまたまアルバロにあった。そしてショウとフアナが正式に分かれたことを聞いた。残念な気もしつつ、本人たちの問題だからしょうがないかと言う諦めもあった。
「もし勘違いだったらごめん、カルさんってネナベ?」
最近、そんな探りを入れたそうな会話がいくつかあった。時期を考えるとフアナから漏れたのかなと疑う気も少しある。リアル割れをする気はフアナを断った時と変わりはなく、付き合ったら結局女扱いされて自分が嫌になる未来しか見えない。実際高校生の頃「お試し期間として付き合ってみてよ」と言われて付き合って、女扱いされる気持ち悪さと、友人(この頃は完全に男友達の方が多かった)と話で盛り上がっているだけで嫉妬され不機嫌になっていくのを見て、一週間で音を上げた。
「え?どして?」
男でもいいというような人間なら、逆に良かったのか?まぁ、この外見じゃ女扱いされるんだけど。あと15センチとは言わない。10センチでも身長があればまだ男装で生活できたかもしれない。女性の平均身長そのままと女っぽい顔は隠しようもなく、便利なのは夜の街をとおる時に客引きにも職質にもかからないことくらい。この体は機能として割り切るしかないと思って生きてきた。実際筋トレ系の動画を見ても、6パックは無理としても縦には割りたいなとしか思わないし、知識として知っているから、弊害が大きすぎる体脂肪率15%以下に下げる気はない。それにムッキムキの女性ボディビルダーを見ても正直萌えない。
「もし女の子だったら告白したいと思った。勘違いだったら悪かった、本当にごめん」
あぁ、アルバロにはバレてたなと思った。でも、そのまま嘘を押し通した。
その後一緒に冒険する頻度は減り、他のリアルの友人の誘いで他のサーバのレイド戦専門のギルドに参加することになったこともあり、パーティーは自然解散となった。