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自滅 (草稿版)  作者: メガスターダム
序章
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序章4 (高須の裏の顔)

 一方、勾留開始直後、マスコミは「独自取材情報」と称し、高須の別の顔を報道し始めていた。


 高須が、若い頃からそれなりのルックスで金も持っていたこともあり、女性関係は元々華々しかったこと。モテていた故なのか、独身貴族だったこと等だ。更に1年以上前からは性風俗店にまでに通う様になり始め、やがて、核心部分でもある援助交際にも手を出し、1年弱前にはそれ絡みで女子高生相手の強姦で逮捕歴があることも伝えられた。当たり前だが、やはり性犯罪歴はあったのだ。


 ただ、これはおそらくマスコミ側の取材で明るみになったというよりは、警察側が正当な逮捕勾留を世間にアピールする為にマスコミに流していたのだろう。この点について西田が話すと、当然ながら竹下と意見が一致した。


「それで、竹下が持っている情報だと、(捜査が)上手く行ってないってのは、被害者の年齢絡みか?」

西田は話を元に戻した。

「図星ですね。高須の性的嗜好(しこう)には、女子高生レベルまではあっても、女子児童まで含んでいた様な証拠や証言は、未だに出て来てないそうです。自宅のガサ入れでも児童ポルノ関係は一切無く、また、強姦被害者含め、過去の援交していたと思われる相手も、未成年とは言えそれなりに成熟した容姿だったそうです。今回の被害者は、見た感じも大人っぽい訳でもない、年相応の普通の女児ですからね……。それがいきなり(女子児童相手に)いたずら目的で殺人まで犯すとは、捜査本部でも、その点については疑問の声が上がっているとか。当然、高須自身も事件関与自体を否認しつつ、『俺はロリコンじゃない』とも主張しているそうで、幾らDNAの一致と防犯カメラのことを突き付けても一歩も引かないそうです。無論、客観的な意味では起訴に何の問題もないと思いますが」

竹下は、そう言うと、鎮静効果が期待出来るというカモミールティーの匂いを嗅ぐようにティーカップを軽く2回転程させた後、軽く口を付けた。


「確かに、現場の遺体には間違いなく高須の精液が残されていた。これはかなり決定的な証拠だ。後は性的嗜好のギャップをどう埋めるかだけだが、これがクリアー出来なくてもお前の言う通り大した問題じゃなかろう。ただ、他にアリバイとかについては?」

西田の確認に対し、

「発覚した前日か明けて当日の深夜がおそらく犯行時間帯ですが、前日の夕方以前から発覚日の早朝まで、アリバイは一切証明出来ないらしいです。一応その間の防犯カメラには映ってないですが、これは抜け道がある以上は余り意味をなさない」

と竹下は答えた。


「そうなるとだ……。スーパー以外の現場近くでの目撃情報や防犯カメラ映像は?」

その問いにも間髪を入れずに、

「その点についても、犯行当日には一切映ってないとか。尚、それまでスーパーに来てた時には、常にその周辺の道路沿いの施設や店舗などの防犯カメラに記録が残ってたそうです」

と返す。

「そうか……。じゃあ殺害現場に高須が居た証拠……、つまり下足痕げそこんは?」

西田は、現場の犯人と見られる下足痕、つまり靴跡についても尋ねてみた。

「現場周辺はずっとアスファルト舗装されているんで、植え込みなんかでも遊んでいた被害者以外の下足痕は、はっきりとは表立ってないようです。とは言え、一応潜在足跡(目に見えない足跡)は取れているらしいですよ。ただ、残念ながら現時点で把握できている高須の靴の下足痕に一致するものは無いとか」

「靴は処分したり出来るからな……」

西田は自分を納得させる様に呟いたが、

「しかし、決定的なDNA情報と、それまで現場に出入りしていた映像が残された一方で、当日に高須が現場周辺に来た映像がなく、同時にアリバイもない。更に他の痕跡は無いという点にも、下衆の勘ぐりかもしれんが何か妙なギャップは感じるんだよな……。DNA情報を以前に取られたことは、もし高須が犯人なら当然わかっているはずだろうから、そこも残したままというのは違和感がある。それぐらいの頭は回る人間だろう。そりゃイチャモンと言われれば否定出来ないレベルなんだろうが……」

と首を遠慮がちに捻った。彼の関与は決定的なはずだが、やけに気になることが多いのも事実だ。


「西田さんもそう思いますか? やはりそこなんですよねえ……。そこが妙に引っ掛かる。ほぼ決定的なはずなんですが、西田さんの刑事としての長年の『経験』からもそう思うんでしょうけど」

竹下は敢えて刑事の『勘』ではなく経験という言葉を当てはめて喋ったが、それは西田が経験を重視しているからでもあった。そして、竹下がわざわざマチュアにやってきたのも、こういう点が気になっていたのだろう。


「しかし経験は俺が無駄に長いが、刑事としての才覚はお前の方が圧倒的に上だったからな。モヤモヤがある点で一致したなら、どうも何やら不自然な感じが拭えんのは間違いなかろう。気にし過ぎと言えばそうなんだが……」

煮え切らない言い方に終始したが、一方で西田の発言通り、竹下は警察を若くして辞めてしまったとは言え、頭脳明晰タイプだったのも事実だ。新聞記者になってからも、重要な事件で外部捜査協力してもらったことがある程だった。その頼りになる刑事だった竹下が警察を辞めた理由が、学生時代にはマスコミ志望だったこと以上に、警察の権力に弱い体質に呆れたからというのも、本人以上に、当時上司だった西田の心にずっと刺さっていた。


 その直後に、色々な過去の経緯を思い出したか、2人の会話は10秒程途切れたものの、

「とにかくこんな状況ですから、近い内に吉村がやって来るんじゃないですかね? アイツだって腑に落ちない面が多いことはわかってるでしょうから、西田さんにアドバイスを求めて来るんじゃないですか?」

と言い出した。

「それはどうだか? 起訴に問題がある訳でもない。確かに、俺が辞めた後も、詳細を何度かボカした上で捜査のアドバイスを求められたことがあったが、そこまで重要な事件でも無かったようだし。今回はかなりでかいヤマだからな……」

西田はこれまでの記憶を1つ1つ辿りながら言葉を継いだ。その上で、

「今はアイツも責任ある立場だから、OBとは言え、俺に余り情報を漏らしたくないと思うぞ。何より、DNA情報と現場にも頻繁に行っていた上、アリバイもないとなると、一応『本来』なら悩む要因はないだろう」

西田は竹下の推測にそう疑問符を付けた。

「いや、そこは旭川方面本部の捜査一課長までなった人ですから、口の固さは信頼置いてるでしょう?」

竹下はすぐに反論してみせた。

「それ以前にそもそもの話として、今竹下から聞いた情報で、吉村から詳しく聞き出すまでもなく粗方掴んじまった感はあるな。つまり俺の方は吉村の話を聞くメリットがないから相談されても困る」

西田は苦笑交じりだったが

「言われてみりゃそうかも」

と竹下も応じて笑い、カモミールティーを飲み干した。

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