♭096:再会かーい(あるいは、リユニオラ/レジェンダリック/邂逅)
そんなこんなで、列に並びての立ち話に盛り上がっていたせいか、割りとすんなり「入場」らしきところまでは進めたのだけれど。
エントランス前の段差を三つほど跨ぎ越えて、黒服二人が手続きをしている白布が敷かれた机の前に歩み出る私と主任。
こちらに登録コードをご提示ください、との言葉を受け、既にスマホにて登録していた、諸々の情報を内包しているのだろう二次元バーコードを画面に表示させたまま、差し出す。
ピッと電子音が鳴り、その画面に何らかのリーダーを近づけていた黒服が、ではこちらへ、と自分の背後を指し示そうとした、その時だった。
「!?」
端末の画面を注視していたもう一人の方の黒服が、座っていたパイプ椅子をがたりと倒さんばかりにして立ち上がったのである。そして私の顔を見上げてくるけど。
「み、みみみみ『水窪 若草』……様、でございますでしょうかしょうか……」
あれ、完全に上擦ってるけど。私の名前は……この世界に轟いてしまってるとでもいうのかしらん。まあ、先だっての大会では実質優勝したといっても過言ではないほどの、魔神が如きの暴れ方をしたわけだしね。だったら悪名か。
「バカ野郎ッ!! 何ぼさっとしてやがる!! 『VIPルーム』にお通しするんだよっ!!」
黒服のひとりが、もうひとりをそう罵倒しているけど。完全にテンパってきた受付の黒服二人に促され、私は横で、すごいねやっぱり、と謎な納得をしている主任と共に、他の人たちが吸い込まれるようにして消えていく入り口とは別の、重そうな扉が塞いでいるそこへと案内される。
「……今年はレジェンド様方が大挙して訪れております……ゆえ、多少手狭になることをお許し願いたい……」
ずいぶん固い喋りになっちゃったねー、と軽い感想を浮かべている私だったが。
「!!」
両脇から観音開きに開かれた、その先には光が眩く舞い踊っていたわけで。
そこはもうカジノだ。ベガスの、VIPステージのような。
光沢の少ない、毛足の長い赤いカーペットが床面前面を覆っていて、これでもかの豪奢なシャンデリアが見上げる高さの吹き抜けの只中にぶる下げられている。金の装飾を施された階段の手すりは目に来る光をこちらの網膜向けて飛ばしてくるけど。
いや、ここで働いているんだけれど、こんなとこあったなんて初めて知ったわ。何もかもが豪勢。巨大な舞踏場のような趣きのその大空間には、何十人かの人影が見受けられた。
あれ、でも何か普通の感じの人達ばかりなんだけど。
普通の冴えないビジネススーツもいれば、詰襟学生服、ラフなポロシャツなんかも、所々に置かれたテーブルを囲んで何やらグラスを傾けている。流石に女はキメキメのドレッシーな感じが多いけど、割と地味めな格好のもいる。うーん、ほんとに「VIP」なのかな。
そんな少し真顔になりかけた私のもとに、ひとりの「少年」が何故か駆け寄ってきたわけで。なに? と少し身構えてしまったけれど、あまり記憶に残らなさそうな笑顔を浮かべたその「少年」の顔は、何かどっかで見たことある。




