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♭094:開幕かーい(あるいは、やっとかめ/アーパルトゥーラ)


 遂に、来た。この日が、来た。連休へと連なっていく、土曜日。ただし、ただの土曜日では無い。他ならぬ、と今更改まって言うことではないのであろうけど……


「摩訶★大溜将だいりゅうしょう戦」の当日なのであった……


 湾岸の風は、今日も海側から質量すら感じさせるほどの勢いで吹き付けてきている。


 主任のボルボで、家から保育園を経由して、そして会場であるここ「台場フロント=シーゼアー=カジノ」まで送っていただいたのだけれど、時刻は朝の8:00なわけであって、意外に早い本日の立ち上がりではある。まあ土曜保育も17時までとお願いしてきたので、早く始まって早く終わる分にはかえってありがたいのだが。


 聡太には昨日の夜に大っきな水鉄砲ウォーターガンをプレゼントしておいた。ふおお、これはじゅうろくれんしゃだね……と、まだ箱にしまったまま大切に枕元に置いていたけど。明日の日曜は海沿いの公園にお弁当持って出かけて、思う存分撃ちまくらさせてあげるつもりだ。


 正六角形を為す白亜の巨塔を見上げ、私は常日頃「職場」として通っている所に、今日は何だか異なる雰囲気を感じ取っている。いや平常心。それが何より大事なのよぉー。


 4年ほどの月日を経て、私は帰ってきた。この、いまだ得体の知れない謎の「祭典」へと。正直、日々の暮らしに流され忘れていた。いや、忘れようとしていたのかも知れない。この「ダメ」にまつわる諸々のことは、自分の心の奥底に固く封印しておこうと無意識に思ったのかも知れない。


 環境も激変したからね……。結婚/出産/離婚。2歳の我が子を抱え、ワンオペで仕事と育児をぐんわぐんわ必死こいて回してきた。自分の時間なんてほとんど無かったし、聡太と一緒にいられればそれで満ち足りていたのも事実だ。


 けどじゃあ、この高揚感はどこから来るんだろう……


 私はこの2週間ばかりの間に、過去参加した「女流謳将おうしょう戦」なるものの逐一を思い出していた。いろいろあった。あり過ぎて今なお咀嚼しきれん物も多々あるほどだ。


 ゆえに自分の中では大きな存在に仕上がっているのかも知れない。この「ダメ」が。「ダメ」としか表現できないほどの「ダメ」が。と、


「……若草クン、ここまで僕につき合ってくれたこと、それにまず感謝している」


 いろいろ迫る諸々に思いを馳せていたら、隣からそんな御声がかかるのだけれど。主任はここ数日のどこかで、そんな風な名前呼びにさりげなくシフトしていた。ちょっと昭和メロドラ感を醸しているものの、そのくらいの距離感が心地よいし、もちろん嬉しい私もいる。


 これからですわ、頑張りましょうね主任っ、という、こちらも昭和に引っ張られた感の著しいキャピキャピ(死語推定30年)のブリっ子(死語推定35年)にて、応対してしまうのだけれど。


 いよいよだ。もうここまで来たらやるしかねえ。やったるでーい。


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