#092:紫電で候(あるいは、空前絶後の/プラチナム/才能ガー)
「弁舌により、相手と論を戦わせ、それに打ち勝つ……そのような認識でよろしいのだろうか」
つい、口を挟んでしまったが、そもそもその「ダメ人間コンテスト」なるものの正体が未だ掴めない状態であるがゆえ。
話の腰を折るなとばかりに、姫様が振り向きつつ氷の視線を浴びせてくるものの。
「うーん、ま、ちょっと違うか。だが、大将、お前さんが興味を持ってくれたこと、そいつは渡りに船ってやつだ。なぜならよぉ……」
何とか己の立ち位置のようなものを立て直してきたギナオア殿が、うんせと腰を伸ばしながらそう私の方に顔を向けて来た。
「参加者は『二人ひと組』。よってこの中の面子から出場するにせよ、相棒を決めておいた方がいいってことだ。より明確に勝ちを、掴んでいくためにはよぉ」
ギナオア殿はそのような力の抜けた言葉を放ってくる。「二人組」ということか。我々5名の中から「ふた組」を作ろうと、そう画策しているのであろうか……
「わ、私も出場するのはやぶさかではない。だが、申し訳ないが、いまだ私の稚拙なる頭ではその、それを理解できないのだ……」
私はまたも間抜けなる言葉を発することしか出来ない。しかし、そんな私の言葉をいともたやすく遮るや、
「大将、例えば『お題』で『水』と出たとする。それに対して、お前さんは自分の『水』にまつわる話をぶちかませばいいだけの、極めて簡単な話よぉ。いっちょやってみたらどうでぇ。あれこれ説明するよりも、その方が早い」
曲がらない方向を向いていた自らの右人差し指を、左手で握って元に戻そうとしていたギナオア殿が、そう私に水を向けて来る。
「水にまつわる話」。それならばつい最近もあったばかりだが……それを、ただ言えばいいと、そういうことなのだろうか……論ずるも何もないのか……
「私は……」
と、ギナオア殿に促されるまま、口を開こうとした私だが、何故かその張本人に止められた。何であろう。と、
「……せっかくだから『日本語』を使うんだ、大将。『翻訳』は為されるようだが、それじゃあ微妙なニュアンスは伝わらねえ。やはり『ダメ』は日本語に限ると、俺はそう思うんだぜ。さあ、かませよ大将。俺は姫様よりも誰よりも、お前さんに勝機を見出してるんだからよお」
何と。ギナオア殿の風の如き言葉が、わが胸の奥をも浚ったかのように感じられた。
この私のことをそこまで買ってくれているとは……ならばもう、ここはやるしかなかろう。私は鼻より空気を肺いっぱい、いやそれより下の腹底まで届けよとばかりに思い切り吸い込んだのち、おもむろに日本の言葉を紡ぎ出していく……っ!!
「『大ッキナ河、ありはりマっしゃーろ? んどで、ソコぶわっしゃー嵌まっテよってもォ、何テかん岸まんデ、んーばばちゅーて流さレはっしゃーて、気ィばうせんどでば、めんこーカぁめンこォに息吹っこーらいで、上も下も膨らミよって、げっハーな話ちゃやっさケ』(大河に嵌まりし我、何とか岸まで流着するも、意識を喪失したもうが、可憐なる盟友の献身により息吹を吹き込まれ、再びこの世に還りつかん)」
……どう、であろうか。
一瞬以上の沈黙の後、ギナオア殿はひどく悪げなる笑顔を見せたわけであるが……どういうことであろう?




