#091:内包で候(あるいは、プラトナス/YAT来ました/三兄弟)
「その何とかというのは……わらわにも出来うるものなのであるか」
姫様のもっともな御質問に、へ、へい、とすっかり委縮してしまったギナオア殿が、痛みに震えつつ、そのうすら長き顔面を歪めながら、説明を続けるが。
「格闘技」、それであらば、私がお役に立てる余地が残されているやも知れん。「言葉の」というような枕詞が付いていたような気もするが、弁舌であろうと、私の巧みなる日本語は、きっと一助になろう。私はこれまでの度重なる失態によりて失墜したる己の名誉を挽回する好機とばかりに、ギナオア殿の言葉に耳を傾ける。
「どんな人間にも、己の心に闇はある。胸の奥底に、澱のように瘡のように溜まったそいつらを、魂の言葉に変換して相手に、世間に、外界へと撃ち放つ。それが出来うれば、どんな人間でも参加は可能よぉ。あらゆる人間の、ダメを共有し、昇華させる、魂の浄化の祭典、それこそが、『ダメ人間コンテスト』」
かさついた右人差し指を、畏れ多くも姫様に向けて言い放った言葉が、いまひとたびの、全ての始まりのように、私は感じている。
私の運命の車輪は今、軋みながらも回り始めたのでって、ええ?
「……」
力の抜けきった態勢より、またしても鋭い姫様の御蹴りは、ギナオア殿の突き出された人差し指を刈り取るが如く、薙ぎ払ったわけであり。
かひみかりぃ、のような呻き声を上げつつ、ギナオア殿は、体を丸めて痛みに震えているのだが。
「端的に述べよと申した。要は何をするものか、説明せよ、ギナオア」
姫様はここに来て無尽蔵なる成長を続けられている……っ!! 御精神のそれも計り知れぬと思うていたが、御身体のそれも凄まじい……もっと言うならば、蹴撃の鋭さ、類見知如……
「あうう……先ほどより申し上げていますが、己のダメだったエピソードを開陳して、評価を得て、それで戦うというような……まあそんな感じなのです」
完全に口調が定まらなくなったギナオア殿がそう取り繕うが。
「『ダメ』とはその……『ダメ』、なのであろうか?」
姫様の端的なお言葉は、しゅらりとギナオア殿に向けて抜き放たれたのであるが。
「イエスだ、姫様。どんなに身分が高かろうと、金を湯水が如く貰っていようと、ことこの世界では関係ねえんだ。自らを省み、それを共有することで、乗り越えていければ、必ず自分の『先』が見える……過去に何人もの救われたやつらを見送った俺ならば、そう言いたい」
ギナオア殿は、不思議なほどに凪いだテンションでそう申し上げてくるが。
どうすればいい? おもねる姿勢で果たしてよいのだろうかとの思いは胸奥に確かにあるけれど。




