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#082:済々で候(あるいは、プラントロジー/白亜/ランディング)

 それは正に幻想ファンタジーが如くの、光景であった。


「……」


 晴れ渡る空を覆いつくすかのような天蓋を有する車寄せに停められたタクシーから降り立つと、そこは真白き壁床が張り巡らされた、宮殿のような趣きの入口エントランスであった。


 何という……ここは本当に病院か? 「町医者」云々とギナオア殿は言っていたが……まるで天上の楽園のような趣きである。


 整然と並べられたソファには、病を治しに、あるいは、さなる者を見舞う為に訪れたと思しき老若男女がみっしりと腰かけている。皆々うつむいてはいるものの、それらの顔には得も言われぬ安らぎのようなものも確かに浮かんでいるように見えた。


「このような場所に……おばば様はいらっしゃるのか……」


 驚愕なのか、呆けたような声を上げる姫様。ああー、そうだ、いちばん信用できるヤツがやってんだ、俺が推挙したのよぉ、だから間違いはねぇよ、とギナオア殿はすたすたと受付らしきところへと歩みながらそう言うが。


「……」


 手を、回していてくれたのか。おそらくは国王陛下からの命を受け、おばば様に最高の治療を受けさせるために、手配してくれていたのか。


 姫様は白い光に包まれた、その吹き抜けのホールの只中で、じっと立ち尽くしている。傍らのモクが、よかったですね、国王陛下様は、あなた様のおばあ様も、お母様も、そしてあなた様のことも、皆、気にかけてくださってらっしゃるじゃあございませんか、と優しくその背中に手を当て静かに言葉を紡ぐと、姫様は唇を噛み締め、少し怒ったような顔つきをした。


見てはならぬと慌てつつ私は、ガンフ殿、我々は見舞いの花でも買いに参りましょうぞ、と、その広い背中を押して売店へと向かうのであった。


 フラワーアレンジメントなる、小さき箱に詰められたような花束を買い求め、再び受付ホールへ戻る。しかして、ギナオア殿は未だ受付のカウンターの中の女性と何事か剣呑な言葉を交わしていた。何か揉め事であろうか。


「ですから、ご家族以外の方の面会はお断りしていますと申しておりますっ、柏原カシワバラ 薫子カオルコ様には、御身内の方はいらっしゃりません」


 受付の女性の尖った声が響いてきた。私の頭でも解せる日本ジャポネス語ではあるものの、言っていることは、情も何もないようなひどく乾いた言葉のように聞こえた。


 こちらをちらと振り返り、姫様の不安そうな顔を見たのだろう、しょうがねえなあ、野郎と会うと面倒なんだがよぉ、など、ギナオア殿はぶつぶつ呟きながら、手にした端末スマホでいずこへか電話をかけたようだ。ややあって相手が出たのか、何事かを喋ると、悪ぃな、と言いながら通話を切り上げたのだが。


 果たして、端末を懐に収めるか収めないかの間に、廊下の遥か遠くから、こちらに向けて駆けて来る一人の小男の姿が私の目には留まったわけであり。


 白衣を着た、医師のようだ。周りの視線も全く気にならないのか、必死な顔で、不格好に手足を振り回すようにして駆けてくるのだが。いったい誰であろう?


「アオナギィィィヒィィィィィっ!!」


 そのように、掠れる声で呼ばわっているように聞こえるが、はて。


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