♮079:決意ですけど(あるいは、カプセライズド/ベスティアリティ)
しかして、その名称にはいまいちピンときてなさそうなジョリさんと逢流さんの顔を尻目に、
「で、どんな風にするんだ? メイド服と一概に言っても色々あんめぇ」
と、翼がここに来てまともな進行をしてくるのに逆に少し戸惑う。でも言ってることは確かに。前回は長袖、スカート丈膝下、肩フリルの前面覆う純白エプロン……と割とクラシカルをイメージしたオーソドックスな作りのものだった。ま、着用していたのは非オーソドックス極まりない面々だったわけだけれど。
ジョリーさんの設計・縫製に、逢流さんの調整が入ったメイド服は、身体にこの上なくフィットして、その稼働に合わせて先回りするくらいの収縮により、着ている者の動きをサポートする、みたいな、重厚な見た目とは裏腹に、凄く動きやすい逸品なのであった。漕いだり飛んだり滑ったりなどの活動量が非常に多かった先の戦いにおいて、それは誠に頼れる相棒だったわけであり。
しかしそれほどの代物を、今の僕が作るのは難しいだろう。ならば……
「肘・膝は露出させます。そこまでの袖丈・裾丈にする」
自分に言い聞かせるように、そう言う。稼働域にかかる部分をなるべく少なくする。それであれば生地収縮によるサポートは見込めないものの、最悪、稼働の邪魔にはならないはず。そして裾に関しては思い切って短くしよう。極限までの軽量化だ。別に大衆に媚を売るわけでは無くて。と、
「……今回『格闘』はあるのかしらぁん?」
何気なく放たれたジョリさんの言葉だけど、「格闘」っ!? そんな要素……前は無かったよね?
「わからんが、何やってくるかは本当に読めないのは確かだ。用心して準備しておいた方がいいだろう」
重々しく逢流さんがそう告げるわけなのだけれど、うーん、物騒なことになってきた。と思ったら背後から軽々しい声がかかる。
「おいおいおーいっ、ならうってつけのモチーフがあろうまい」
翼はあれだな、キャラを自分でも固定しかねているな。ひと言ごとに誰が喋ってるのか考えさせるのはやめろ。でも、何か僕にもぴんと来るものがあったのは確かなわけで。前回大会の翼の出で立ちと言えば、それは……
「アーミック=カモルティカル=スーツァー」
「……いや『ミリタリー』でいいだろ」
翼の言葉を封じるように被せるように僕はそう告げる。広義の軍事迷彩服。それとメイド服との融合、……ありかも知れない。僕の頭の中におぼろげながらイメージが浮かんでくる……っ!!
「色は……どうする、翼」
そのイメージを離したくなかったので、僕は動きを止めたまま、前に回り込んできた翼に問う。
前回、色は「三人組」だったので、「三色」……「紅」「蒼」「碧」とした。ビロード地でほぼほぼ見た目は黒色なんだけど、光の反射によってそれぞれのカラーが出るといった、我ながらマニアに刺さる絶妙の色チョイスのもの。
「……そいつぁもう、一作目が『赤』『緑』と『青』ってきたんなら二作目はこれしかねえ……」
にやりと笑いを寄越してきた翼だったが、ああーなんか言いたいことは分かってきたー。ま、実質三作目ではあるのだけれどね。
「『金』ッ、エンド『銀』んんッ!!」
何故か右人差し指を高々と掲げ叫ぶ翼。はいはい、ま、その配色はコンビとしちゃあ鉄板かつ座りがいい。イメージは固まった。であれば。
全力でっ、制作!! それしかない。




