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♭071:潜行かーい(あるいは、紺碧/ベーサイダル/エーリエン)


 うららかな春の昼下がり。


「……」


 封印せし古の力、我の内で甦らん。


 固定された何かが欠落した笑顔のまま、ゲッゲッゲ、と歓喜の笑い声を迸らせる。


 頭の中には拳銃リボルバービジョン。それは中央でぱきりと折れると、六発装填の弾倉のその六つの穴に、虚空から染み出すようにして現れた金色の弾丸たちが次々と殺到していくのが感知された。


 再び拳銃が元の形態に戻るや否や、私は脳内に自分の左手を突っ込むように現出させ、虚空に浮かぶそれの弾倉部分に指を引っかけると、勢いよく回転させる。


 しゃぁあああああ、と小気味よい音を響かせるそのグリップを握ると、私は現実の左手をも何かを握るようなかたちへと移行させ、自らのこめかみ辺りに持っていった。


 いっつぁーラシアンるーれッ、と呟きながら、人差し指を引き絞る素振りをした私は、頭の中で、ぱきょぉぉん、という間抜けな銃声を響かせながらも、「何か」が確実に自分の中に撃ち込まれたことを悟るのだった……


 以上のことを約二秒で済ませた私は、自分が「全盛期」の私を取り戻していることも悟る。私の様態に驚愕の表情しか浮かばせていない眼前の池田、そしておそらく私の後方で何事かと驚愕しているであろう主任、そして全く意に介せず真剣にちまちまと手にしたソフトクリーム(チョコ×バニラ)を舐めているだろう聡太。


 全部を俯瞰するかのような、問答無用な空間の只中に、私は座っていた。軽く息を吸い込んでから、託宣のような言葉を発するため、私はゆるゆると口を開いていく。


 頭の中に浮かんだのは、ローマ数字の<ⅩⅡじゅうに>。


……「ガニメデⅩⅡトゥエルブ」。奔放たる、魔性の十二歳がいまの私に宿っていた。


「……『主任にぃ、激しく突かれながらもぉ、私も負けるかって必死で手を伸ばしたらぁ、勢い余って喉元を突いてしまった件』」


 「DEP錬金」。今のあたしは言葉遊びに異様なほどに傾倒していた、すさんだ生活の中でそこに活路を見出そうとしていた、哀しき十二歳。


 「主任」はもちろん、この場にいる賽野主任では無いし、「突き突かれた」は剣道の事だ。過去の事象を嘘とならない程度に脚色し、ぼやかし、そして作り変えて撃ち放つ。


 人を食ったような小悪魔的微笑を口許だけに浮かべながら、私は池田の自信に満ちていた顔から、それらが鱗のようにぱらぱらと剥がれ落ちていくのを、脳内で見て取った。


 スマホ画面が<集計中……>との文字を表示させている中、傍らに来ていた聡太が、おかーさん、ちゃいろとしろのところがあじかわるんだよ……と真剣に解説してくるのを聞きながら、余裕の表情で、いいこいいこをしてあげつつ、評点が出揃うのを待つ。一瞬後、


<後手:9,299pt>


 点滅していた画面がその表示で止まった瞬間、池田の顔色が蒼白へと変容する。


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