表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/312

♭062:暗転かーい(あるいは、猿舞人踊/レンチトリッカー)


 開園と同時に園内に突入した私たちは、まずレッサーパンダくんのだらりとした姿態にぬおおと連写しまくり、ライオン、キリンと定番どこをずんずん見て回ってちょっと落ち着いたところで爬虫類館に足を運んではカメの優雅に泳ぐ姿に感動するのであった。


 いや、やっぱ動物園っていいわ。子供はもちろんだけど、大人も何か引き込まれるようにして楽しめる。聡太とおさるさんに手を振ったり、逆にペンギンが歩いてる姿を凝視してみたり……ほどよく空いていた園内で、私は当初の目的を忘れて少しはしゃいでしまっていたのだけど。


 いやあかん。主任とのおデイトであることをついうっかり忘れてたわ。渾身気合いのお弁当が入った紙袋も持たせっきりで、Oh……でもそんな私たちを、後ろからとてもとても優し気なる目で見ててくれた主任は、いやぁここにして正解だったよ、との嬉しい御言葉をかけていただけるわけであって。


 園内には青空の下にいくつかテーブルとベンチが設置されていて、何たる好都合。ちょうど陽射しがいい具合に遮られる絶好の場所を確保できて、じゃあお昼にしましょうという流れになった。


 ぼくりんごがのみたいな……と、普段はジュース類は極力飲ませていない聡太が、通りすがった売店で見かけたのだろうか、私の方じゃなくて、何となく主任の方を見ながらそんなことを呟く。それを見た主任が、いいかい? と、ちゃんと私に了承を取ってくれるけれど、そんなところもポイント高いわ。


 うん今日は特別OKよぉ、と、作り慣れてない満面の笑みを浮かべつつ答えると、よし、じゃああっちのお店だ、と主任が聡太を促し立ち上がる。一方の聡太も、りんごっておいしいんだよね……とまたも呟きながらも、主任の差し出した左手を自分の右手で掴むと、嬉しそうに早歩きで売店の方へと向かっていく。


 そんなふたりの後ろ姿を見守りつつ、はぁぁぁぁぁ、と、幸せな時でも……ため息って出るんだ……みたいな、何とも地に足着いていないような思考がほわわんと浮かぶのだけれど。


 でも。


 あれあれあれ? おかしいな。何もないわけが無いよね。ここに至るまでの出来事は全て、これから起きるダメ関連への壮大な前振りなんでしょ知ってんだよ私知ってんだ!!


 もはや懐疑的な思考が、再び「この地」に戻ってきた何日か前から、常態にはなっている。お昼の用意をしかけていた私に、懐かしさすら覚えさせる気配が、ダメの気配がベンチ側の常緑樹の陰から臭うように漂ってきた気がした。


 そこっ!!


 すかさず私は手にしていたプラスチックのフォークを横一閃、背後の木々の間目掛けて投げ放っていた。いや何やってんの。まーさーかー、そんな所に人なんか隠れていないでしょおって……


「……よくぞ見破った。流石は『女流謳将おうしょう戦』の覇者、水窪みずくぼ 若草わかくさだ」


 あっるぇ~幻聴が聴こえるぅぅぅ……それもやば気なるワードが差し込まれーの、テンプレ入りーのな物言い……


 私は奇しくもサル山にほど近いこの場所で、只今の事を、見ざる聞かざるの体で押し通そうか否かと、この期に及んで迷っている。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ