♮051:創成ですけど(あるいは、輪廻/ツイナー/スピンドル)
「岬、兄ちゃんはな、本当はお前のことが心配で座間味からはるばる本島にやって来たんだ」
のっけから嘘満載で切り出してきた翼だけど、真顔で聞き流す構えの僕を見ると恥ずかし気にけへっと照れ笑いを寄越してきた。気持ち悪いわ。
外壁と外壁の隙間に挟まり合うようにして対峙している似たような顔をした1Pと2P。何だろう、バグってポリゴンの隙間から落ちて挟まった格ゲーのキャラクターになった気分といえばいいだろうか。いや、いいことが皆無という点においては言うべきではないか……
もはや滅裂こそが我が思考とばかりに、奔放な思考は、これがこの現世に現れた異世界ですとばかりに宙を舞うのだが。というかそもそも双子間で兄妹感って皆無だったろうが。何が「兄ちゃん」だ。もうその時点で嘘まる出しであることが窺いしれるわけだけど、構わず顔を横向けて距離15cmくらいで向き合った翼は、表向きは真摯な顔つきで続ける。そんな僕らの間を生ぬるい風が流れている。本題に入るぜ、と真面目な顔で仕切り直しにかかった翼だけど、初めからそうしろ。何で回りくどい?
「得られる賞金がハンパないことは聞いただろ? 俺とお前で組めば、大概の輩なら瞬殺レベルで屠れるだろうよ。掴もうぜ、人生を7回は買えるカネをよぉ」
やはりそんなとこか。でも翼は翼で、考えるところはあるのだと思う。現況が追い込まれ気味だとか。まさか丸男のように多額の借金は抱えてないよな?
「……まっとうにやってるつもりだぜ兄ちゃんは。去年一級も無事取ってからは、毎日漁に明け暮れる毎日よぉ……ま、家族のためならそんなのは全然苦でも何でもねんだけどな」
あ、やっぱ所帯を持ってたのね。リタさん。僕も先の「大会」にて面識はある。そうか、結構まともにやってんだ。うん、でもそれならそれでいいんじゃないの? あと兄ちゃん言うのはもうやめよう?
「……生活ははっきり言って苦しい。『5億』っつうのははっきり過分かも知れねえが、それでも俺は欲しいんだ。それでいい漁船20隻くらい買って、自分の船無くて陸で燻ってるやつらを全部雇って、みんなでやりてえんだ。甘っちょろい考えだとか、お前は思うかも知れねえけどよ」
こいつは意外に自分の人生のことを考えている。馬鹿なりに計画して設計して、馬鹿なりにそれに情熱を注ぎ込んでいるんだ。どこかまだ宙ぶらりんの僕とは、そこが違う。
「……」
どうせ出ることになるのであれば(力場が僕を捉えているから、それはほぼ100%の確率で起こりうるだろうことはもう知っている)、こいつとコンビっていうのもありなのかも知れない。数少ない、肉親ってこともある。
今回ばかりは情にほだされてやるか。まあ僕も貰えるなら貰えるわけだし。
「……やるよ。でももうダメの力は尽きてるかもだけど」
流した鼻息と共に言ったその僕の言葉に、これでもかと目を見開いて輝かせると、翼は伸ばした左手で、僕の右手を力強く握ってきた。そのカチカチの掌に、こいつの全てが現れているような気がして。僕は何だか、清浄な風に全身を包まれたような感じを受けている。
しかし、
「っいやぁ~やる気になってくれて何よりだぜ。これで俺の家族6人も路頭に迷わなくてすむ!!」
ん? 力いっぱい言ったようだけど、なに「6人」て。リタさんと子供? 2年あまりでそんなに授かったの?
「あいや、リタとぉ、リミとぉ、それぞれが生んだ俺の娘たちが双方双子でぇ、計6人」
言いつつまたけへっと照れ笑いをかます翼だけれど、あァンっ!? 前言撤回、こいつの大脳には倫理観も家族計画のカケラも無ぇぇぇぇぇぇえええええっ!!




