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♮046:南天ですけど(あるいは、ガーリー救世主/4946の巻)

 心象世界の中心で哀切を叫んだものの、それで事態は変わるはずもなくて。


「お、おカネならそのお財布に20万くらい入ってるわぁん! それで勘弁してちょうだぁぁぁいっ!!」


 ジョリーさんがホールドアップの態勢を取ると、控室の低い天井までなら届いてしまいそうだな……と、早くも現実から離脱し始める意識を必死で引き留めつつ、僕も壁に両手を挙げ突き、ご丁寧に足も肩幅まで開いて服従の姿勢を取る。


 「襲撃者」は、いや、ソバージュな女の後ろからもドコドコこの控室に踏み込んできた「襲撃者」たちは、ちらと伺った限りでは、全員が全員、これまたテンプレ気味の黒スーツにサングラスでキメているのだけれど、逆に目立つよね? 気にしないんだ、そういうの。


 頭数は……5人……か。こちらは4人だから迂闊に動くことは出来ない。まさかソバ女が構えている拳銃は本物ではないとは思うけど、それでも万が一があるのなら動いてはダメだ。


 それに、丸男ひとりの身柄を受け渡すことで済む案件であれば、一も二も無くそうしたい気持ちでいっぱいなわけで。なんならついでに翼もつけますよ?


 そんな風に、何とか僕に先端を向けつつあるベクトルを必死で逸らそうと試みるものの、どっこい、そうは~いかないぃよねへぇ~♪


 ミュージカルばりに歌い踊り出したいところだったけど、すんでの所で止めといた。不審なことをしたら撃たれるという可能性がゼロでは無かったから。


 はたして。


 場を仕切ってるようだったソバージュ+白カチューシャという、元号へいせいが変わろうとするこのご時世に、元号へいせいに変わりたてくらいの時代から転移してきたような女がいきなりがなり始めた。


「そんな木っ端ガネは要らねぇんだぁぁぁぁっ!! うちらが用あんのはよぉ、『ムロトミサキ』、ただそれだけよぉ」


 出てしまった。固有名詞が。でもまだだ。一縷の望みはある。高知県室戸市に属する、太平洋に面する岬に用があるという可能性を……可能性を、追うんだッ!! いつだって僕らはッ!!


「あ、こいつだけど」


 そんな皮一枚下の内面で激しく渦巻いていた葛藤とか何やらを一切合切無視した体で、僕とほぼほぼ同じな遺伝子と外面を持つ双子兄つばさが、あっさりと僕を指さしてそうのたまうのだけれど。あほぉぉぉぉぉうっ!! 違ッ……と否定しようと壁から振り向いたが、鼻先に銃口を突きつけられると、身体は壁に沿うようにして意に反して伸び切ってしまう。


「!!……なるほど? こいつは確かに並々ならねープレッシャーだわね。ムロトミサキ……手荒なことは極力したくない。要は『スカウト』。私らと一緒に『とある試合』に出場し、莫大な賞金を山分けする。それだけの、いともたやすいコト……」


 余韻を含ませつつ、そんな流し目を送って来るソバージュだけど、対する僕は結構な真顔なんだろう、そのリアクションでも無いようなリアクションを「理解不能」と判断したのか、ソバ女は逐一丁寧な説明を始めようとしてくるが、それを遮って、


「……あなた方は……一体……」


 何とかそんな疑問文のようなものを、薄く開いた唇の隙間から漏れ出すかのように発することはできたのだけれど。それは何というか、ダメを呼び込んでしまう最悪の悪手であったわけで。


「我々は『NCEエヌシーイー』……『ノッサ=スィンコ=エジャコラッソ』」


 多分にタメを作ってからソバ女から言い放たれたそれら単語群は、僕の大脳新皮質の表面を滑り倒した挙句に霧散していってしまう。


 ……っん全っ然、状況把握が出来ないんだ↑が→!!


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