#041:殲滅で候(あるいは、クライマーズ/ノオトニアス/Hiビッグ)
一同の思考の空隙の瞬間、それらを刈り取るように、拙者の「両枝」が風を切り唸る。あくまで地平と平行となった姿勢を保ったまま、真顔で両脇から伸びる長き竹竿のような枝を意のままに操りながら上空から襲い来る拙者に、シンクダンはじめ、スーツの屈強男たちも面食らったようでゴザル。
「……!!」
次々と手の中の得物を弾き飛ばされ、泡食ったところを的確に顔面目掛けてしなる枝先をぶち当てていく。およそ生物的な動きから遠ざかることがこの「流棒殺法」の極意であり、そのためには表情を殺し、カクカクとした断続的なる動きに終始せねばならない。
ひぎぃぃヒトの動きをしていないよ怖いよぉぉぉっ、との叫びを上げながら逃げ惑うシンクダンの身体が、ふいに突っ込んで来た巨大な物体によってクルマの側面にぶち当たり挟まれる。
「……」
ガンフ殿だった。その三角い巨顔を包む、黒・白・橙の、猛き鳥 (オオハシというらしい)を模した覆面を沈みゆく夕陽が照らす。その巨体を余すことなく生かした低い姿勢からの右肩からの強烈なぶちかまし。目標の背後に「壁」となるものがあることを見越しての、見事なまでの戦闘術である。流石は「格闘王」。肉の壁と鉄の壁のはざまに挟まれ込まれ、あせぷてぃっくじゅうてん、のような呻き声を上げて悶絶するシンクダン。そして、
「大人しくクルマを置いて立ち去るんだなぁ……しっかしまた、こすセコいことやってんよなあ、タメイド新九段サマよう。まあ……いいかよく聞けッ!! 次からは容赦しねえぞ? こっちにもそれなりの『武装』が手に入ったからなぁ。言っておくが、俺の引き金は軽い。『あ!』って思った瞬間には引いちまってる、そう思ってた方がいい」
弾かれた拳銃を手にして構えた、ギナオア殿がどこか呆れたような雰囲気を醸し出しながらも発した言葉に、芝居もかくや、と思わせるほどの蜘蛛の子散らし気味に面々は散らばり逃げていく。
危機は去った。
「両枝」から両脇を抜いてするすると下界へと降りて来た私に、モクがこけつまろびつつしながら駆け寄ってくるのが見えるが。
「ジローネットさまっ……お見事なる棒さばき……昨年の『コルメク=タ選手権』準決でのサシリノ殿の『ホネッ=コタベ=テェ』の奇襲をうまくいなして勝勢を築いた、あの時の手筋を彷彿とさせる裁き……まこと、感激いたしました……っ」
潤んだ瞳で私の手を取り、そう熱っぽく語ってくるモクであるが、
「……そなたの顔に傷がつかずに済んだ。それが何より」
当然の如く発せられた私の言葉に、何故か顔を赤らめ俯けてしまう。また何か、見当違いのことを申してしまったか。つくづく私は度し難い。そして、
「……ジローネット、ぼやぼやしている暇は無い。さっさと乗り込むがいい」
背後からおみ足にて、背を蹴られる。姫様は未だいらつきの御様子だ。まあ、少しは活躍らしきものを示せた私ではあるが、それも先の失態を帳消しにするにはまだまだなのであろう。
気を取り直し、右ハンドルの車両の運転席に付くと、私はゆっくりと始動させる。目指すはキガリ。そこまではおそらく道なりにいけるはずである。




