♮036:滑舌ですけど(あるいは、高邁通りの/怪談児/セサミスター)
最悪と言い切れる再会ではあったものの、しかし、無下には出来ない。やっぱり肉親は憎めない……
数年ぶりかに出会った翼は、少し逞しくなったようだ。黒いタンクトップに深緑のニッカボッカ。それらが日に灼けたしなやかな筋肉の付いた細身の体にしっくり馴染んでいて、手練れ感は存分に発散してはいるのだけれど。
向き合ってみて驚かされたのは、その顔貌。数年前に邂逅した時は、とある理由によって美しく整えられていた。愛する女性に、そっくりな顔に。
でも今は何というか、戻っている。ずっと離れて暮らしていたから、顔面がどう成長するかは正確には分からないけれど、でも分かる。
……鏡で見る、僕の顔に似ているからだ。
身体から発する力強いオーラのようなものと、その自信に満ち溢れた表情はリア充的な雰囲気を醸し出してはいるものの、こと「ダメ」においては、大丈夫? レベルのDEPしか、撃てなくなっているようにも思えた。
いやいやそれよりこいつ……翼と組むだって? いやいや、そんな気恥ずかしい真似、出来ますかっての。でも、
「えーと、え? 翼が僕のパートナーを務めると、え? また、何で?」
精一杯をもってして、そんな曖昧な疑問文を呈することしか出来なかった。しかして、目の前に自信たっぷりの「出」をかましつつ現れた翼は、何故かしてやったりの笑顔を浮かべているばかりであって。いや、説明せえよ、ここに至るまでの諸々をぉぉぉっ。
「しゃっしゃっしゃっしゃ。いまさらそんな無粋な質問は御法度だぜ、我が半身……ミサキと俺とは、正にの一心同体……ここに!! 新生『ミリ=タリ=シスターズ』の結成を高らかにぶち立てる次第でござますっ!! 掴もうぜ、人生が数回買える大金をよぉ」
ほんと、キャラ変わったな。もはや別人だよ……、すでに真顔で聞き流すことくらいしか出来なくなっていた自分に、
「……こちとら全くもって干渉はしてなかったんだけどよぉ。何つーか、いい具合に『入った』感を醸し出しているのを人づてに聞いてよ? マークはしてたんだぜぇ……そして今回の倚戦……本人に打診したらこの上なく即答で了承された。さあ、ムロっちゃん!! あとはお前さんの肚くくり次第!! これ以上の息ぴったりさは望めないパートナー降臨で、どうする? どうするよぉ?」
丸男も、すっかり調子を取り戻して、ようわけのわからんアオり方をしてくるのだけれど。
「いや……ないんじゃないかと」
対する僕は、大分前から鏡面のように凪いだテンションに留まっている。いや、本当にないから。
「おいおいおいおーいっ!! そりゃねっての、ミ・サ・キっ!! 俺は先の倚戦から、お前の奥底に眠るダメの才気を見極めてたんだぜぇ……ここは一発、どでかいのをぶっ放すほか、無えと思うんだがよぉ!? な? な? ななな?」
もうほんとちょっと、胸焼けしそうなんだが。何もかもが軽薄だったバブル期にGOしたかのように、意気込む翼の勧誘は続くのだけれど。
「……」
どうしよう、な自分は依然として奥底に居座っているわけで。
いやほんとにどうしよう?




