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♮035:双生ですけど(あるいは、君と/僕とで/ゲンガーだ)


 久しぶりに虚空へ向けて空つっこみをしかけた僕だけれど、流石は世界大会。規模の違いをのっけから見せつけてくれる。


 しかして、そんな多勢が芋洗うような状況下で、「対戦相手を選ぶ」なんて芸当が出来るものなのだろうか。おそらく恐ろしく騒然とした中でわけもわからないうちに全てが終了しているような気がする。


 まあ、そこはやってみるしかないのかも。僕はもうダメに関しては達観から一歩さらに高みへと踏み込んだ境地に至っているようで、全てを受け止め呑み込む、そんな天衣無縫の構えでいるわけで。


「……まあ、こんなところで負けるわきゃあないだろうが、時として意外なダークホースにぶち当たっちまうこともままあるのは確か。よって既に『一勝』を上げているコンビは相手しないってのが常套戦術よぉ。ま、ムロっちゃんはそんな些末いことを意識する必要なんざ、これっぱかしも無いと思うけどなぁ」


 ほんとにアオナギが乗り移ったかのような物言いだ。思わず乗せられてやる気のようなものをほの見せかけていた僕だが、この単純さこそがダメの人々に付け込まれる隙なのかも知れないと、上唇を噛みつつ気を引き締めてみたりする。


「予選は確かにあっと言う間に終わっちゃうかもぉん。そして何より『同時通訳』が為されるとは言え、基本となる言語は『日本語』だからぁ、ネイティブめっちゃ有利なのは不変」


 ジョリーさんはどこから持ってきたのか、こじゃれたデザインの小さなカップに入ったスイーツ的なものに小さなスプーンを突き入れながら、ちまちま口に運んでいるけど。そうか、流石は世界大会。様々な言語が飛び交うと、そういうわけですね。


 様々な国の人たちがDEPで殴り合う光景……まったくもって僕の大脳にビジョンは結んでこないものの、そんな需要あるの? 的な疑問も先立ってしまい、思考はまともにピントが合わない状態に落とし込まれている。


 その時だった。


 そんな、支離滅裂だけれど安穏とした空気を引き裂くかのように、この「控室」の外階段に通じる側の鉄扉がガンガンと叩かれたのである。


 思わず身をすくませる丸男だったが、ああそうだ、「パートナー」を呼んでたんだっけか、と、そこ忘れる? みたいなつっこみを誘発せんばかりのことをのたまうと、おおう! 開いてるぜぇッ!! と、その扉の向こうにいるはずの相手にドラ声を投げかける。


「パートナー」……いったい、どんな人だというのだろう。丸男がここまで自信を持って推してきているということは、かなりの手練れ……? いや、まさか、アヤさん……? 僕は問答無用に魅き込まれる天使的、あるいは小悪魔的微笑を湛えた、その魅力あふれる顔を思い浮かべるのだけれど。でも彼女ならそんな野卑に扉をぶっ叩かないよね……というような諦観にも似た的確な思考を展開してしまう。


 そうして思考を止めた僕の前に、バァンと扉を勢いよく開けて入ってきたのは、いちばんの想定外の人物だったわけで。


「いよっ!! ミっサキぃ、ひっさしぶりだなぁ、いやいやいやぁ、こんちまたまた!! 数年のブランクを経て、再びダメ界に不死鳥の如く舞い戻ってきたって、おいおいおぃぃぃ、ちょっとあんさん、くりびつしすぎだっての!! っこのこのぉっ!!」


 異様なまでの、昭和的ハイテンションを繰り出す人物に、今日いちの真顔になるのを禁じ得ない僕がいる。


 そこにいたのは、他ならぬ僕の双子の兄、宗谷そうや つばさ、そのひとであったわけで。


 えええええええええええええぇぇぇぇぇぇっ!?


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