♭032:相反かーい(あるいは、マッチアップ/鏡面的/誰彼)
おお? おかーさんだ! と毎回迎えに行くたび、迎えに来たことを驚かれるのだけれど、聡太は何か黙々と組んでいたブロックの砦みたいなものに背を向けてこちらに駆け寄ってくるので、おかたづけ、と制してから、遅番の先生に急な延長を詫びる。
聡太くんはおともだちの事もちゃんと考えてくれて優しいんですよー、と可愛らしいエプロンを身に着けた私より一回りは若い先生に笑顔で迎えられると、何となく嬉しいし、誇らしくもある。まあ保育士さんの方が滅茶苦茶大変で誇りある仕事であることは分かってるけどね。目尻と口角の間らへんに、隠しきれない疲れを滲ませているものの、こんなままならないお子様方相手に、えらいことですわ。私だったら子供たちに恐怖政治を敷いて、支配することくらいしか出来ない……
そんな恐ろしく浮世離れしつつも、大元のところは日常に根差している、そんな思考を巡らせながら、ふと、先ほどのダメの諸々がぽこりぽこりと思考の上澄み水面に浮かび上がっても来ていることを自覚している。
―「試合」の形式は、その時その場によってころころ変わる。ゆえに対策は取りようもないんだが……基本はDEPを提示して、その評価ポイントを用いて勝敗をつける、という所は変わらない……と思う。
コーヒーカップの底を見つめながらそう説明を続けていた、主任の姿と言葉が脳裏に蘇る。告白されてからは、目を合わせてくれなくなったのが少し残念な気もしたけど、でもそれって……想い合う二人にはよくあることだよね……
頼りない電灯がうっすら白く照らす駐輪場。我が子に黄色いヘルメットを被せながら、思考はあっちこっちに飛び跳ねまくりだ。でも、
おかーさん……みずてっぽうってひゃくえんにあるかな……? と聡太がぽつりと呟くのを聞いて現実に戻って来る。どうかなー? じゃあ今日行って探してみよう! と返すと、ふふふ……あるといいね……たぶんあるんじゃないかな……と喜びを隠しきれない表情になったのを見て私も何とも言えない満たされた気分になって、ぎゅ、とハグしながら電動自転車の後部座席に抱え上げる。
―「嘘が御法度」というのも、留意しなければならない大前提ルールだ。当然なことながら、高評価を得ようとして、うっかり「誇張」を超えた「つくり」を発してしまうことが割りとままある。参加者の体に取り付けられた装置によって「嘘をついた」と判断された時点で、全身がえび反るレベルの電流が浴びせかけられるそうだ。そしてそこで失格となってしまう。そこは注意して欲しい最重要ポイントだが……
百均に向かう道すがらも、主任の言葉が見慣れた景色と共に頭に流れて来る。私自身はかなりやる気になっていると感じてはいるけど、日常と非日常の擦り合わせ。それは細心の注意をもってせねばならん! と肝に銘じつつ、私は私の「最善」を手探ろうとしている。




