♭031:勝算かーい(あるいは、称賛受けての生まれ出で/オフショア)
はてさて。
お迎えが30分遅れとなってしまった私は、湾岸沿いの結構な道幅の歩道の車道側を、ふんふんと電動自転車のペダルが空回るほどの性急な踏み込みをもって突っ走っていっている。
先ほど控室で賽野主任の口から飛び出したのは、荒唐無稽なことこの上ないばかりの与太話。実際、いかに主任とどうにかなってやろうと思っていたとして、アレに乗ろうとするのは、はっきり正気では無い。そのくらいの分別は最近なら芽生えてきたはずだ(そうか?)。
だが私は知っている。ダメ界隈のあれこれは、現実に、物理的アンダーグラウンドな世界でひっそりと、待ち伏せ思考の水棲肉食生物のように、息づいているということを。そして獲物と成り得るべき者を喰らいこまんと、常に日常のあらゆるところに触角を張り出しているということも。
過去に一度、絡め取られた私なら知っている。過去に一度、死に損ねた私が見た、極彩色の万華鏡地獄のような修羅なる世界。私はそこで戦い、肉体や精神に汚泥のようにこびりついていた何かを全部、洗いざらいぶちまけて、「浄化」を受けた。
いや、そこまでは言い過ぎか。でもともかく、再び人生に向き合うきっかけとなったのは確かだ。何だかんだあって巨額の賞金は得られなかったものの、そこで得たものは大きい。
それだけに、だからこそ、再度その「祭典」に、「賞金」目当てで参加することに躊躇を覚えてんだ、私の表層上は。しかし、お金はいまや切実なる問題でもある。聡太のために、育児に妥協はしたくはないのだけれど、そのために先立つ物の重さが、最近特に明確に判ってきてしまっているから。
今から挑もうとしている戦いで、得られるものは何だ? もう一度、自問する。
……主任+10億えーん、えーん、えーん……
やけに打算的で生臭い自分の声が、これ以上無い軽薄さをもって、私の大脳内で鐘の音と共に響き渡った。
か、欠けているピースが埋まる……埋まりきって、z軸方向に、ぶももももとはみ出さんばかりに……ッ!!
目は虚ろで弛緩した大口を開けながら疾走してくる高速自転車に、すれ違う人が明らかにびびって後ずさっていくのが、ループ再生のように視界を流れていくけど。
暗くなり始めた、薫風ただよう歩道をぐいぐい進んでいく。顔を尋常に戻しながら。そして一点、気になっていた「要素」を思い返す。
―今回開催される『摩訶★大溜将戦』は、言ってみれば、ギャンブル、さらにはカジノゲームの側面がかなり強いものであると、俺は考えている
ギャンブル。まあ出たとこ勝負という意味ではまごうこと無きギャンブルなのだが、おそらくはそういう意味ではないはず。
培ったディーリング技術が、生かされる時が来たのかも……そして主任の持つ、もう何か「特殊能力」と言ってもいいほどの、「確率の見極めセンス」。
そして「タッグマッチ」。もしかしたら、正気のままで掴めるかも知れない、勝機を。




