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299/312

♬299:諸舞で候かーいですけど(あるいは、乱れ染めにし/我なら奈落に)


 何であれ、もう行くしかない。突っ込むしかないんだっ。


 「話し合い」とか、そういったのはやっぱり決裂……なのか? やっぱり肉弾で物理で……分からせるほかはないのか?


 いや、言葉にだって、力はあるはずだ。現にそうやって(一部、滅裂にだけど)、戦い抜いてきたじゃあないか……っ!! その両方を、自分のすべてを使って。


 フィールド中央。近接するアヤさん騎とサイノ騎の周りに、僕ら騎、若草さん騎、そして姫様×執事人馬(ケンタウルス)が、間合いを詰めようと三方から包囲を狭めていく……!!


 まずは……いちばん近いまずは僕から、いけっ、ぶちかませDEPをッ!! 揺さぶれ奴の「平常心」をっ!!


 おおおおおおおお……


「……『僕はッ!! いや僕もッ!! この「ダメ」に救われた人間のひとりなんですッ!! 「ダメ」があったからこそ曝け出すことのできた自分……「ダメ」によってこそ知り合えた得がたい人たち……自分を、自分を根底から破壊して新たに構築し直していく……これはそんな「場」なんですッ!!』


 僕の渾身の言の葉はしかし、


「……破壊されただけの者もいる。破壊し尽くされて、そのまま消えた」


 サイノの温度の無い言葉に霧散されていく。んんんん……あれ?


 主任のがらんどうの表情は変わらない。少年くんが状況を打破しようと動いてくれたのだけれど、あっさりそれはいなされた。でも。


 ……私らと言葉を交わすこと、それはまだ拒否されてはいないようだ。なら。


 ぬおおおおお、二の矢参るぅぅぅぅぅぅぅッ!!


 私は右うしろ下で騎馬の右後ろ脚を形成しているオーリューさんの頭を景気づけにぱしんとはたくと、全力前進の命を我が騎馬に出す。そしてそのまま主任とハツマの元へと馳せ参じるのであった。果たして。


「……『死を免れた、人間だっているっ!! 中途半端な高さの雑居ビルから飛ぼうとしていた人間を、地の底に喰らい呑み込むようにして、絡めとりそこでボコボコに身体も精神も殴りなめしたッ!! それによって立ち直れた人間も、ダメ人間もいるッ!! だから……』」


 私の魂の言の葉はしかし、


「……同じこと。立ち直れる人間というのは、元々が立ち直る資質を備え、きっかけを待っていただけの者に過ぎないっ!! 妹は、それには耐えられなかった!! 一例を持ち出されたとしても、現状は変わらない!! 変わらないんだよ……若草クン……」


 駄目だ。しかも意外と冷静じゃんかよ……まだ名前呼びしてくれたことに私の意識がそっちに引きずられてしまいそうになるけど、平常心を逆に揺さぶられている場合じゃないっての。んんんん……無念。


 サイノへの呼びかけは、ことごとくは無為に……終わってしまったようだ。


 どうすれば。私が……しかし、私などの言葉が届くはずも。


 自分が為す「騎馬」の歩みをも止めてしまいながら、私はこの土壇場にきて躊躇をしてしまうのだが。そこに、


「……大将、姫さん……あるだろ?」


 フィールドの片隅にまだ倒れ伏していたアオナギ殿の……掠れていながらも不思議としゃがれ通る声が、地を這うようにして我らの元まで響いてきたのであって。


「『残弾』残り二発だったけか……? そいつを、ぶっ放せ、『二択』かもしれねえが、いやそもそもそんな高確率でもねえかもしれねえが、やるだけのことはやってみてくれや……」


 震える上体を、何とか片肘で起き上がらせたアオナギの言葉は、


「……行け……ジローネット……」


 私の首元に跨り、荒い呼吸を何とかお鎮めなさっていた姫様にも届いたようであった。御股の隙間より、見上げるかたちでその潤んだ大きな御瞳(おんひとみ)と視点が合う。


「……!!」


 お互い頷き合うものの、その動作で私の顎の先がどこかを押してしまったのか、んく、というせつなく押し殺した濡れ声が姫様の小さく整った唇から漏れ出ると、次の瞬間、赤らめた怒り顔でまた喉仏を両手で潰されようとしてしまうが。


 行くしかない。打破できるのはやはり、我が主の他をおいておらぬと、私は信ずるがゆえ。



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