#288:専断で候(あるいは、消せないのは/思い出ダケェ?)
……完全たる、これが人馬の理想形……でゴザル。
「……」
私の頭の中は今まで体感為し得なかったほどに凪に凪ぎ、澄み渡りに澄み渡っていた。周りの輩どもも、静観の構え……
「どう手を出してよいか分からぬであろう……その方ら、得意気に出して来たるそれら『得物』とやらだが……扱うこと、それほど慣れてはおらぬと見受けられる。よってッ!! その『棒』……その切っ先が振り下ろされてからでも、我が『竿』は、それを即座に薙ぎ墜とすこと可能でゴザルと言っておこう……迂闊なる者より来たれよッ!! 『竿』の先端は細いがゆえ……眼に入らぬよう注意を怠らぬようにな、でゴザル……」
ならばと思い、挑発をカマしてやるものの。牽制くらいにはなったであろうか……それよりも言葉を発するたびに、私の喉を柔らかく熱く湿り包む姫様の身体がびくびくっと動かれるため、少々難儀する。口を開けるたびに顎に当たる箇所からも、ちくちくと音は鳴るばかりで何とも集中できぬ。と、
「以後……声帯と……顎を動かしたら……素っ首を即座に締め落とす……肝に銘じよ……ジローネットよ……」
我の喉元に跨りたる姫様は、先ほどからそのような湿った声で私にそんな無理難題を突き付けるのであるでゴザルが。
「し、しかしてッ!! 私の視界は限られてしまうゆえ、高き場所よりの姫様の御指示が無ければッ!! 到底奴らを先んじることなど無理であるがゆェェェエエエエエエッ……!!」
私の、真摯なる言の葉はそこで途切れた。姫様が思い切りその両手指で我の無防備たる喉仏を鷲掴んできたわけであって。
ワザとやっておるだろう……との氷が如くの冷たき御言葉に、完全なる不本意の体でままならぬ首を横に激しく振り否定の意を示すものの……ふ、ふわぁぁん、ん、動くなッ、と制されつつさらに締め上げられてきてしまうのでゴザル。こ、このままでは昇天してしまう……
「四肢をそんな風に突っ張っててェ……まともに動けるのかって話だよ……!!」
まずい、その間にシンクダン騎が我々の右前方から迫り来ていたでゴザル……ッ!!
「……ジローネット、左後方からも一騎、『七時二十一分』の方角」
左手竿を振りかぶらんとす私であったが、そこに降り落ちたるは、常日頃から聞き慣れし、姫様の氷の……的確なる御指示であったわけであり。
「……!!」
咄嗟に右手と左手を交差させ、その勢いを回転への力へと転換していく。逆立ちのような格好となった私の顎が、全体重がそこにめり込みかかるかたちとなった姫様の御顔をせつなく歪めるものの。
「!!」
両脚時間差で放った竿の「二撃」が、左後方より迫りし一騎……右目から入りし「情報」では「ケイン騎」……こちらをしなる竿先にて撃ち倒す。同時にさらにざくざくと両手竿を交差するように突き刺していきながら、身体を回転させつつ、両足竿を振り回していく。
我が槍法に、死角なし。
さすれど喉元はどんどんぬめってきており、姫様の身体がすっぽ抜けそうになっていることが懸念でゴザル。と思い、顎を思い切り引きて固定させようと試みるのであったが。
それが、いけなかった。




