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♮283:暗礁ですけど(あるいは、シャイニングオブ/滂沱ストリームス)

 ムードは間違いなく押せ押せ。


 フィールド中央にどしりと構えた仙天山(せんてんざん)関の、左右の張り手がほぼ同時くらいに迂闊に接近していた(むこう)方、シギ騎とヤブシ騎の騎手ふたりを、何の見せ場をも与えずに非情にも吹っ飛ばし屠っていくよ……


 最強の前衛を有した我が軍は、相手方に自陣への侵入をも許さないまま、ついに騎馬数も「7対6」と、上回ることが出来たわけで。


 いい感じだぁ、と高揚する反面、ん? あの周到なサイノがこんな「劣勢」を予測していなかったことなんてあるのか? との疑いが頭をよぎる。放心状態になってしまっていた若草さんの騎馬たちにいったん下がっての合図を出しつつ、僕は後方から相手陣へと視線を飛ばす。


「……」


 いた。シギ・ヤブシが左右に割れつつ吹っ飛んでいった後ろから、サイノ率いる見るからに屈強そうな面子に担がれ、当の本人は両腕を身体の前で緩く組んで余裕の素立ち……そのまま余裕の笑みを貼り付かせたまま、目の前の仙天山騎向けて真っ向から向かっていっている……!?


 今の張り手(たいほう)の威力を見ていなかったわけじゃあ無さそうだ。不気味。それでも仙天山さんはブレずにいま一度右腕を身体の脇で引き絞ると、無防備に迫ってくるように見えるサイノに向けて照準を合わせたみたいだ。これで決まれば……ッ、すべてが終わるッ!!


 刹那だった。


「……ッ!!」


 仙天山関の、声にならないくぐもった呻きのようなものが響き渡る。と同時に、僕の方から見えるその幅広く筋肉で盛り上がった背中が、右方向へと沈み始めたのが見て取れた。何が?


 その大きな後ろ姿が崩れていく後ろから現れたサイノの手には。


「……スタンガンさ……特に武器の使用は禁じられていないからね」


 伸縮式の警棒のような、そのような形の50cmくらいのものがいつの間にか握られていたわけで。言う通りそれは電気を流す奴で、それによって仙天山さんの体の自由を奪ったってわけか……あえなく頭からフィールドへと落下してしまう巨体……下の御三方が瞬時にそれを察して頭部直撃は避けてくれたようだったけど。


 野郎……何がDEPで決着をつけるだよ、でも何でもやって来ることに備えてなきゃ駄目だってことは、「ダメ」でいやというほど思い知らされてきただろうことだっただろ……!!


 よく見ると、サイノ以外の敵メンツも、同じかたちの得物を最早隠さずに手に手に携え始めている。こちらを調子づかせてからそれを刈り取ってくるという嫌なやり方に、憤りを禁じ得ない僕だけれど、たぶんそれは皆さんも同じ。


 一気に不利になった気もしないでは無かったけれど、落ち着け、落ち着いて策を巡らせるんだ……!!


 一転、前線はじりじりと下がらざると得なくなり、敵騎の自陣への侵入を次々と許してしまう状況……このままじゃ、まずい。



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