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♮282:労苦ですけど(あるいは、絡め取り/メルカトリック/ビープ)


 押せ押せの雰囲気かと思っていたけれど、コトはそう単純じゃあ無さそうだった。敵方の騎馬数を順調に減らしていった我が方……でもそれは向こうにとっちゃあ、それは想定の範囲内みたいな空気を感じている……


「……」


 何より若草さんの様子がおかしい。自分だけがDEPを放てるという圧倒的有利な状況下での硬直……もちろん会場(このば)に大切なご家族がいるということは分かっている。でもそれを吹っ切ってこの戦いに臨んでくれたように思っていた。けど、そこまでの割り切りはやっぱり酷だったのかも知れない。我を失ってただ立ち尽くしているかのように、後ろ姿からだけど見て取れる。


 ならばどうする?


 ……行くしかないはずだ。後方でずるずるやってる場合じゃないよ。


 僕の意向を敏感に察知してくれたのか、僕の下で騎馬を形成してくれている丸男―サエさん―翼の組み合ったところがぎゅっと収縮したように感じた。とにかく前線へ出て、若草さんの騎馬を護らないとだ。


 しかし、だった。


 ふんぬッ、というような気合いの鼻息が戦場に響き渡る……と同時に、僕の目の前を大きな筋肉の塊がそれにそぐわないと思わせるほどの素早さで通り過ぎ、若草さん騎の前方へとぐるり廻り込んだのが見て取れた。


 仙天山(せんてんざん)(ぜき)……本当に力士と見まごうほどの得体なボディは艶のある、いい感じに張った質感を有していて、それがこの会場のスポットライトの光を照り返しぎらぎらと輝いて見える。2mくらい身長あるよね……そして体重もおそらく120とか130とかじゃ利かなさそうだよね……そんな御方が「騎馬」ではなく「騎手」を務めていることに何故とか思っちゃったのだけれど、逆に細身に見える下の三人……忠村寺(ちゅうそんじ)桂馬(かつらま)さん・レーゼさん……遥か昔の「自転車漕ぎ勝負」をやった時にも感じたけど、この人らの鍛え方はハンパじゃあ無いわけで。中でもその細い胴回りに匹敵するくらいに太く鍛え上げられた太もも……巨大な神輿を担ぎながらも、その脚運びは揃っていてブレが無い。


 よって尋常じゃない張り手(たいほう)なんかを携えてそうな、攻撃力満点の一騎ということになる……敵方にいなくて良かったね。


 完全にまた後方の傍観者へと委縮しつつ立ち戻っていく僕だけれど、これぞ戦略、と己を納得させつつ、それでもじりじりと、左隣のどでかい軍帽のようなものを被った金髪美麗少女……「(シマ)大佐(たいさ)」って言ってたかな、何故階級が付せられるのかは分からなかったけれど……と目線と飛ばして頷き合い、後方のラインも押し上げていく。



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