♮270:場所ですけど(あるいは、付け出し/張り出し/捲れなき)
「むわてまてむわてぇぇ~いッ!!」
とか、安堵と戦慄を同時に与えられてどういう顔をしていいのか分からない僕の思考を断ち切るようにして。
「……我々もいることを忘れてもらっちゃあ困るッ!!」
いま再びの名乗り出が。もう何かこれだけだらだらとやり続けていいのか、ふと不安になる僕だけれど、大丈夫かな……
いつの間に場に現れていたのかは分からなかったけど、中央に立つ巨大な人影の周りに細身の三つの人影が。
「……同じく赤の閃光ッ!! 忠村寺 達磨参上ォッ!!」
あれ、何か見た事ある……遥か昔の大会……「溜王戦」の予選準決くらいで当たった……何とかっていう自転車漕ぐやつでやり合った……僕の物忘れが激しいのか、記憶を封じ込めて置いた方が日常生活を送る上で諸々都合がいいかは分からないのだけれど、何とかその底の底を浚うようにして思い出してみる。
痩せてるけど下半身を中心に無駄なくつけられた筋肉はしなやかで、その身体のシルエットを浮き上がらせるかのようなタイトな赤×黒のウェアにヘルメットとゴーグルでキメている……そうだ、あの、あいつだ。というか忘れるも何も今の今まで出てきてなかったよね? そして二つ名を丸パクリと。うぅん、フィジカルに全振りしたようなその佇まい、思い出してきたぁ……仰北大学(今は卒業してるかもだけど)、「ガベッジノーツ」の皆さんだぁ!!
よくよく見ると、その忠村寺の両脇の二人もそう言えば懐かしい面子。
細身の眼鏡男子……桂馬さんはクールな無表情ですっと立っている。忠村寺との関係性がどうなったのかどうなっているのか、非常に気になるところではあるけれど、まああまり変わっていなさそう。耳から口許にかけて装着している黒いインカムも、何と言うかイメージ通りだ、たぶん。
そしてもうひとかた、今回はヘルメットを被っていないのでうねりを帯びた赤い髪が晒されているわけだけど、レーゼさん……しなやかな筋肉質の身体はさらに研ぎ澄まされた完璧な曲線みたいなのを描いている。ゴーグルの下から目くばせをされたように思えたけど気のせいだろう。
それより何より、最後のひとり、その三人に囲まれるようにして大きく腰を割っていたのは、ひとりの「力士」のようであったのだけれど。
「……わっしのことは、『仙天山』とぉ、あ、そうお呼びくだされい」
小山のような肉体は、硬そうな筋肉の上にたっぷりと脂肪が乗っているような感じで、肌ツヤはスポットライトを照り返すようにハンパない。立派な大銀杏の下の顔はド迫力の御面相で顎が見事に割れている。右肩から胸部全体を覆うサポーターが痛々しいけど、でっぷりと脂の乗った腹は迫力満点で、その下の朱色の締め込みもその肌の色と良いコントラストで映えている。
どう見ても十両級の佇まいなんだけれど、聞いたことない四股名だな……とか思っていたら。
「……センコ?」
隣の若草さんから、そのような呆れたような声が漏れ出て来た。お知り合い……? いやそれよりその並びだと、「仙天山」さんが騎馬の上に乗るの? それってちょっとというか、かなり無理ありそうだよ……?




