♭264:均勢かーい(あるいは、砂丘が如く/大渦の式次第)
「……リアなのにぃぃぃぃぃっ、Iフロント……ッ!!」
もうだいぶ尺を使って連綿と面々の自己紹介が為されているわけだけれど。見知った輩が出て来たよ、やっぱあいつも噛んでんのか……
もう逆に似合い過ぎてその服装で全ッ然違和感ないところの池田リア……今日は今日とて光沢のある黄緑のハイレグが過ぎてビニールテープ貼ってるような感じの露出度が多過ぎて逆に男衆も引くくらいの下品な水着にまたガウンを羽織って王冠を被っているというひと目正気ではない出で立ちでスポットライトの中でガニ股ポーズを取っているよ怖いよ……
だが、娑婆感を微塵にも掴ませてこないイコール、これはおふざけではおおよそ無くて、たぶんにガチ中のガチなのであろう。こういうの結構見知ってるから分かる。分かりたいというアクティブなベクトルではないものの。
主任がもうあんなことになってしまった以上、覚悟は出来ているつもりだ。何でまた「騎馬戦」をやらなあかんとか、そういう理性でものを考えては既にあかん……ッ!!
「爆弾」。この上なく現実味は無いものの、目の前で飛び散ったディスプレイの破片が今もそこに転がって存在感を示している通り、現実。主導権は、完全に主任側に握られるとみるべき。本当に爆発させることなんてないよね……と思いたいけど、いまは最悪を想定しておいた方がいい局面と思える。
とは言え。
それよりも(というのもなんだけど)「一騎=一億」とか言ってなかった? いや仮に私の騎馬が向こうの騎馬たちを10がとこ全滅せしめうることが出来たるならば……?
じゅうおくえーん……えーん……ぇぇん……
頭の中で鳴り響くは、いつかのエコー。そうか……手段が変わっただけで、目的はそのままだったのね……
急速にやる気が出て来た。と思うや、既に壇上、黒檀の卓に足をかけて、既にストレッチを始めている自分に気づく。
だが、極めていやな予感がした。何かを私は忘れてやいないだろうか……
「……!!」
ふと、スーツの内ポケットに入れていたスマホのランプが明滅しているのが、両腕を上げて伸ばす姿勢になったことで視界に入ってきた。何かの通知……
どうせまたニュースサイトの定期通知だろうと思ったけど、やっぱり気になって端末を取り出して確認してみる。
<聡太確保。でもやっぱりママがいいとのことで連れていきます>
恭介……さんっ。そう言えば保育園のお迎え頼んだけど、まさか……受信時刻は<15:23>。30分前くらい。
<いまどこ>
動揺を、悟られちゃあ駄目だ。素早く四文字だけ画面をさりげなくなぞり上げて送信するものの。お願い……会場にはいないで……っ
<げーとえー。そとにでられない>
「門A」はこの壇上から見て向かって右側……慌てて視線を走らせるけど、それらしい親子の姿なんて、人が多過ぎて分からない。だけど。
聡太もこの会場にいる……そのことを認識した途端、浅い呼吸が止まらなくなってしまう。




