♭260:連達かーい(あるいは、ノッキンオン/ヘルズクラウナー)
<要求を呑めば、その『爆弾』は爆発させないと、その約束はしていただけるのでしょうか?>
一歩何かが噛み狂えば、途端に阿鼻叫喚の修羅場に陥るだろうことは脊髄辺りでざわと感じていたものの、その会場内に振り落ちてくる「実況」、ハツマ アヤの柔らかな声は、聴く人間に安堵感すら与えて来るような何とも不思議な響きを有していたわけで。
うううううん、やっぱ凄ぉぉぉぉい……私そう言えばコイツとも戦ったことあったよね……そしていろいろやらかしたことが脳裏を、走馬燈を手に駆けていく相馬くん(中二の時の同級生)のように駆け巡ってきたよやばいよ……混沌だよ……
相対する人間を片っ端から「魅了」していってしまう、もう能力なんじゃないの? くらいに思える人心掌握術を身に着けたハツマの声は、敵対する主任にもどうやら届いているみたいだ。いやそれもポーズか?
「……無論。私はお前と満場のただなかで戦えればそれでいい。この上ない『舞台』を作ってなぁ……」
前言撤回、主任が凪いでいるのは、その心の奥底の何かがそれだけ揺るぎないものであるだけだからだ。ガチ勝負ってことよね……うーん、それはいいんだけど、やっぱりダメ対局って無事完遂されることって少ねえよなあ……
<『舞台』……?>
幾分いぶかしげに、ハツマの声はそう問うのだけれど。
「『我々』と『そちら側』が、一斉に戦うことの出来るとっておきの『ゲーム形式』を用意した……」
それに答えた主任の言葉に、んん? 「そちら側」ってどちら側? みたいな顔に思わず変化してしまう私がいる。
だが。
「……その名は『DEP騎馬王=戦』!! 各陣営で『十騎』の騎馬を作り、各々の『王冠』を奪い合う、最終戦に相応しい対戦形式だ……」
主任が朗々と説明し始めたその言葉の一文節も理解が及ばないのだけれど。「コロナ」はこのご時世どうなんだろ、とか思うしかない。
「……『王冠』ひとつが『一億円』、あるいは『爆弾の10ある解除キーのひとつ』に相当する。どちらかの陣営が全滅した場合のみ、決着と、そうさせてもらう……」
うーんうーん、わっかんねー、わっかんねえわよう……
「……なるほど」
そんな混沌模様の頭の私の背後から、やけに通るいい声が響く。慌ててその方に目を向けると、そこにはいつの間にか、壇上にすっくと仁王立ち、腕を組んでふんぞり返っている銀色のメイド服の「青年くん」の姿が飛び込んでくるんだけど。
「……騎馬戦ってことだな」
続くその何故か自信たっぷりな言葉に、あやうくコケそうになる私だけれど。でも間違ってはいないか。ちょいと賭けるものが……
大きすぎるだけだ。そして泡食ってる場合でもない。青年くんはもう分かってる。これが荒唐無稽に過ぎるけれど、ガチなんだってこと。
そして主任。本当の、本当に、サヨナラだわ。
「んなぁ~に黙っこくりやがってんだいハツマァァァアッ!! とっととそっち陣営を組みなぁッ!! はっは、まあ手ぇ挙げる奴ぁ、そうはいないだろうけどねえ……!!」
志木が思い出したかのように声を張り上げるけれど。
「……ワタシ、ヤル、シギ、コ○ス……」
それに即応し、私は虚無なる真顔で、そう呟いてみせる。さんざん人を振り回してくれた礼はよお……108倍にして返すが我が流儀よぉ……
ハギィィ、久しぶりに相対しても、いや前にも増して人を喰らい呑み込んでそれが何か?みたいな顔つきが洗練し研ぎ澄まされているよ怖いよぉぉぉ……とのソバ女の声がこだまする。




