♫256:膳場ですかーい(あるいは、遺すモノ/心の岸辺にいま咲いた)
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もう……もう、主任のDEPに頼るしかねへぇ……
青年くんの「虚偽DEP」は、反則ギリギリ級のものではあったけれど、運営には認められたようだ。その評点が正面の電光掲示板にでかでかと表示される。観客席からはまた怒号が押し気味の歓声の塊のようなものがあられのようにぶつけられてくるものの、運営もそのくらいで覆しはしないわけで。
相手方、青年くんの評点『86,678pt』を素のポイントで上回らなければ、「二勝」がまた向こうに加算されて「四対一」となってしまう。こっちも今回【F★】を出しているわけで、残る「二局」両方勝ったとしても最大で「三勝」。つまり最高で「四対四」の引き分けまでしか持ち込めなくなる。
引き分けの場合の説明は例によって為されていないが、「決定戦」みたいなことをやられたら……? 順序からいってその場合は私の手番だ。
私、対、少年くんと相成る。ちょっともう勝てる気がしないんだよなあ……
そんな来たるべき未来みたいなものを見据えてしまい、真顔になるのを止められない私であったけど、
「……」
当の対局者、主任は飄々とした佇まいで佇んでいる。眠たげな垂れ目、長い顎、そして全体的に骨ばって細い体躯。それを包む艶の無い黒のディーラー服。
いつも通りだ。いつもと同じ。
まあ私が知ってるのは、「そのいつも」であって、本当の主任が「違う」んだってことはついさっき告白されたんでもう、分かってはいるんだけれど。
「有段者」、「復讐者」、「賽野は偽名」……そんな言葉の断片たちだけが、私の思考の水面にぽかりぽかり浮かんでくるばかりであったけど。
……「最愛の者の仇討ち」。
いったい主任は過去に何があったというんだろう。なんで私を誘ってここまでやってきたのだろう。
いやもういい。もういいんだ、呑み込め、若草。
こちらを揺さぶらんばかりの思考に思わず振り回されそうになるけれど、それでも見慣れた「賽野主任」のその姿が隣にあるというだけで、私は何となく落ち着いていく自分を認識している。そして、
「……なるほど、『虚偽』はピンポイントでも『虚偽』なのか……」
そんな主任の口から、歌うような軽やかな感じでそんな言葉が紡がれるのだけれど。
「おうよぉッ!! これが俺が編み出した、『必殺ッ・嘘って言やあ嘘だけど、それって本筋外れてね?』……だァらァッ!!」
それに即応反応してくる青年くんだけど、なんか諸々が残念であることは徐々に露呈されつつあるな……いやそんなことより。
「……『点』の『虚偽』。皆々様にはどこが虚偽であるか? 見極められますかな……」
おっと、珍しく外連味ある主任の言葉。これは……!!
<後手:サイノ:着手>
不敵な笑みのまま、主任のDEPが始まる……




