♫255:喪心ですかーい(あるいは、さんざめき/DNA/エフォートゼロ)
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場にはどよめきが一瞬、泡のようにぽこりと沸き起こったものの、余韻のように徐々に静まり返っていく……
「……」
勝負の【F★】を自分の目の前に掲げてから「カードニックスペース」とやらに立てた主任は、今までと同様、その表情は凪いでいた。軽く黒檀の壇上に、力の抜けた右拳を軽く置いて少し斜に構えた姿勢で。
その背後に表示されている「黄色」い波形もまた凪いでいる。主任の「虚偽DEP」……先ほどの見え見えのやつとは多分違う、「本物の虚偽」……ちょっと言葉の意味は分からないけれど。
「……」
かたや相対する銀色メイド、「青年くん」は、先ほど机に右脚を踏み降ろしたままの姿勢でふんぞり返り、こちらを見下ろしてきている……その、ちょっとシャバではあまりお目にかかれない、傲岸不遜を具現化したかのような表情と佇まいで。
「宣言」通りの【F★】が来るか。それとも裏をかいての【T】で、こちらの「ダウト」を釣り上げてくるか。そのケレン味たっぷりに歪められた顔からは、どちらとも取れる、摩訶不思議な雰囲気が醸し出されているのだけれど。
<先手:ツバサ:着手>
とにかく第三の対局は始まったぁ……まずはその傲岸DEP、見極めてみせてやるぅ……私はその発せられる言葉のみならず、表情、身体の動きにも注意しつつ、思うところがあったのなら主任に伝えようと全・神経を尖らせていく。
「……『中学のときぃー、県をふたつまたいだ、双子の妹の通う女子高に制服まで誂えた上で替え玉侵入しようとしたがぁー、もうその頃には身長からして頭いっこくらい違っててー、なおかつ薄手のスカートごときでは猛る思春期の種子島ば、抑え切ることなどとても出来ずにー、総武線の中で何もしていないのに取り押さえられたこれがほんとの勃ち往生ぉぉぉンッ!!』」
前のめりにずっこけそうになるところを辛うじて踏みとどまった私だけれど、ふと前を見れば金色の「少年くん」の方は、伸ばした両手をきつねさんの形にしながら、壇に突っ伏すかのようにして既に倒れ伏していたわけで。
そして凪いでいる……青年くんを示す赤の波形はこの上なく直線に近く凪いでいるよ……というか真実だろうと虚偽だろうと、こんなDEPを平常心で撃てる奴なんているのね怖すぎるね……
<後手:ダウト宣告なし>
そんな混沌色の波濤のような場の変なうねりの中でも、主任も主任で凪いだまま立ち尽くしている……そして静観、ダウト無しと。今のはっちゃけDEPを「真実」と見ているの……? うううん、でもやりかねない確率75%くらいは軽くあるよね……と、
<先手評点:43,339pt>
そして出されたまあまあな点数ぅー、いや、それ以上に気になる、手札は? どうなの?
<先手の出し札はぁぁぁぁぁッ……!!>
多分にいい間を取って実況が告げて来たのは、
<【F★】!! なんと!! 後手スルーにより!! 先手のその評点は2倍されますッ!! 『86,678pt』だあッ!!>
!! 何だってぇ~!?
「……ククク、俺はもう見切っていたぜ……DEPの『本筋』とは違うところをほんの少し虚偽にしさえすれば、残る99%が仮に真実だとしても、虚偽になるっていうことをよぉ……」
青年くんの顔がさらに喜悦に歪みつつ、そのような言葉を吐いてくるけど。ど、どういうこと?
「今のDEPはなぁ……『総武線』でじゃあなく……『中央線』でだったんだよぉぉぉぉうッ!!」
今度こそコケた。そんなのあり? というか路線以外真実って事の方が衝撃的で怖ろしいんだけれど。いやいや、それよりも窮地。追い込まれてるぅぅぅ……




