♭240:思案かーい(あるいは、ソートレグ/天/306)
観客たちのボルテージは、運営のわかるようなわからんような説明が為されたあとから、徐々に上がってきているみたいなんだけれど。
「……」
いや、ここまで盛り上がれる要因がよくわからんわー。此度の「対局形式」……言ってみりゃあ「変則ダウト」ってことでしょ? 違うの?
「嘘チームとやらを配された私らペアだけど、「嘘つき放題」っていうのは、私にとっては、はっきりアドバンテージと言えなくもないかも。
以前にも「虚偽ギリギリ」のDEPで高評価を叩き出した経験もあるし、私の顕現することの出来る「世代人格」の中には、ひねくれまくって真偽が自分でもよく分からなくなってるくらいの「十二歳の私」もいるわけで。
「嘘」と「嘘っぽいけど実はホント」っていうのを、織り交ぜながら放って攪乱すること、可能かも知れない……
「……若草クン、ようやく私のディーラーとしての能力が生かせる場が現れたようだ」
と、私の右隣の検察側席みたいなのに着座していた、賽野主任の落ち着いた声が耳に届いてくるけど。先だっての「対局」で、「正体」を晒したは晒したんだけれど、私の知ってる、いつも通りの主任な感じに少なくとも外面上は戻ってきているように思えた。
私としちゃあ未練が無いっつったら嘘にはなるんだけど、聡太のこと、それだけを考えると、やっぱり元夫とより戻した方がいいんだろうってことくらいは、このしょうもない大脳でも理解は出来る。
すべては泡沫。そんな風に割り切って、この「戦い」を共に同じ目的を持って挑む「戦友」……そんな感じに無理くり位置付けて、残る対局を駆けあがっていく他はない。多分。
しかして。
相手はあの「少年くん」であるわけで、「全身金色のメイド」という、ド派手にもほどがあるほどの装いながらも、それを包み隠さんばかりに展開する「平凡」と言う名の氣が、存在感を盲点に入り込まんばかりにしてくる。
日常生活でもし出逢ったのならば、視界には入っても意識には入っては来なさそうなそんな薄い薄い諸々ではあるものの。
ことこの「ダメ」の場においては、途轍もないほどの存在感を放ってくるわけで。
「平常心」から放たれる落差の激しいDEP……「淫獣」とか呼ばれてたりもしたっけ。とにかくその実年齢よりはあどけないだろうその見た目からは予測つかんばかりの、巨匠を撫で斬るが如くの、ぱっと聞き理解不能の、それでいて何でか魂の奥底を揺さぶられるかの「未知すぎる力」……
運営の手の者たちも、度し難しズルをやってくるので全く油断は出来ないんだけど、そんな姑息な策を弄するのとは全くの別次元にその「少年」はいるように思えて。
対局前から武者震いかは微妙なとこだけど、横隔膜の下らへんがぴりぴり蠢いているのを知覚している私がいる。




