#230:排出で候(あるいは、攻守/裏表/ジークチッパー)
<それではッ!! 説明は略!! あとで取説読んでね!! 『第1ピリオド』の着手順はぁぁぁぁぁぁ……>
痺れを切らしたかにも見える実況少女の、雄叫びにも似た大声で唐突に「対局」は始まったようである。
<1st:タカウトン
2nd:ジローネット
3rd:ヤウチュラ
4th:アロナコ >
「着手順」はそのように決まったようだ。盤上……我々を「底辺」として見ると、左上に「タカウトン」、そこから反時計回りで左下が私、右下が姫様、そして右上が「ヤウチュラ」という布陣となる。
ここから、順々にDEPを放ち、その評点によって得られた「着手ポイント」を使用して、諸々「行動」を起こして、チームのどちらかが先に「中央」に辿り着いた方の勝利となるとのこと。今までを鑑み、その要素が生かされるかは、
……我々に委ねられているとも言えるのだが。
「初っ端とは縁起良いガ原と言えなくもないねえッ!! いいだろう『着手』ガ原ッ!!」
「赤色」こと、タカウトンがその小さき体を思い切り伸ばし拡げながらそう高らかにのたまうのだが。「ガハラガハラ」と急に言い出したようにも思えなくもないが、遂に……始まった。
「……『ごついリュックが逆に映えんじゃね? とか思ってマリメッコのバディのさらに地味目の灰色を選択して、通学路で周りの視線集めてんの背中で感じながら意気揚々と学校に着いたら、仲いいコが慌ててスカート捲し上げ挟んでたことを指摘してきた件。その日の下着の色は淡いライトイエローで、灰色と図らずも調和して互いを映えさせていた件』」
!! ……逐一が翻訳され、我が耳には届いて来るが、これはまずい気が……!!
予選時の姫様のDEPもそうであったが、こうした「色」を挟むことによって、平凡なるDEPも、凶悪な破壊力を持ったそれに変貌するということを、私は既に学習している。案の定、会場からは轟、というような男衆の濁った、それでいて凄まじい歓声のようなものが沸き上がってきた。
<1st:タカウトン:87,223pt>
やはり、かなりの高評価。まずい……予感がする。
「8手」分の「行動」が、赤色に付与されてしまったことになるわけだが……一体どう……なる?
「『9八』『8八』『8九』『2八』『2九』『1八』を『炎上』……」
『炎上』を受けた枡目には、進入不可となってしまう。指定された枡目は、「角」に居る私と姫様の周りの「三マス」であることが、目の前に現れた「炎」の像によってようやく認識されたが、これで我々はすんなりと「移動」することは叶わなくなる。
「そんでもって『8二移動』『7三移動』」
そして自分は斜めに二歩移動と。本当にまずい。「中央」まであと「二歩」まで迫ってしまっている……このままではあっけなく勝負が決まってしまうぞ……
「慌てるなジローネット。臆する素振りも見せるでない」
そんな、焦燥気味の私の耳に、厳かなれどどこか心落ち着かされる姫様の声が、装置を通して聞こえてくる。
そうである。慌てることも臆することも無い。我は我の「奥底」が命ずるまま、DEPを放つまでよ……
私は一度大きく息を吸い込むと、「着手」の合図を凪いだ静かなる心にて、ただ待つ。




