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222/312

♭222:忠烈かーい(あるいは、108つの他意罪/ヘビーローテンション)



 おるけすたでらるす……のような呻き声を上げつつ、私の意外に体重の乗ってしまったジョルト気味の右ストレートを左頬にめり込ませたまま、恭介さんは身体を後方にのけぞらせるけど。


「……!!」


 何とか踏みとどまって、こちらを見返してきた目には、何と言うか、狂気も正気も無いような、全部が全部そぎ落とされたか後に残ったような、そんな光しか宿っていなかった。


「……」


 態勢を立て直したけど、大分疲れがほうぼうに及んでガクガクとした動き。それでも。


「若草……お前を得るッ!! お前が欲しいんだぁぁぁぁぁあッ!!」


 掠れながらも鳴り響く声でそう怒鳴ると、ふらふらの軸足でいま一度、左脚を高々と上げてきた。次の瞬間、起こった地響きのような四股の衝撃は、まだやれるという事を明示しているかのようで。向き合った目にはさらに強さを増した純粋な光。私と……やりあおうっての?


 ……上等だよこのやろう。


「欲しけりゃ、力づくで奪ってみろよぉッ!! いまさらふざけんなって何度も言ってんだろうがぁッ!! 何が『愛する』だッ、何が『愛している』だぁああ、てめえの欲を押し付けてきてんじゃあねえぞおおおおッ!!」


 もう、私の中の「誰」が喋っているのかも分からなかった。咆哮と共に前に踏み込む。再び相手の顔面目掛けて放たれた右の拳はしかし、


「!!」


 紙一重で交わされていた……ッ、いや、かに見えたけど、きっちりその左耳輪に私の右親指のネイルは引っかかったみたいで、ぶりんっといういやな手ごたえはした。え、ええ? 取れてない? みたいに自分で確認するのが怖いみたいな顔をされたけど、大丈夫、ちょっと切れてるだけ、みたい。


 そんなどうでもいい躊躇をしてしまった隙に。


「おおおおおッ!!」


 恭介さんの左肩からのぶちかましが。そしてそのまま、右腕振り抜いたままの姿勢でよろめく私の懐にあっけなく入り込まれてしまう。もろ差し……まずい。中に入られたら、体重差……こちらが圧倒的不利。投げられてしまうッ!!


「!!」


 そう思いつつ、それでも何とか踏ん張ってやろうと、腰を落とし、相手の両腕の上から、まわし(ブリーフだけど)をしっかりと捕まえる。右でも左でも、投げを打たれるタイミングを見計らってけたぐり風味のローでも撃ち放ってやろうか、とか考えていた瞬間だった。


「……!!」


 身体の前面に感じる、体温。背中に回された、両腕の体温。伸び切った体の私は、思わぬほどの力強さで抱きすくめられていたわけで。


 気をしっかり持っていないと、膝から崩れ落ちそうだった。身体を相手に預けてしまいそうだった、無防備に。


 久しく忘れていたその感触に、反射的にその首に回しかけていた自分の両腕を、何とか宙に留まらせることに注力するほかは何も出来ないでいる。



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