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220/312

♭220:寛怠かーい(あるいは、胸の奥の/奥の奥で/輝きたるはスピカ)


「……いまさら、いまさら何なんだよォッ!! 何を……どうしようって言うんだよ……」


 叫びと怒声で、その言葉をやり過ごそうとした私だけれど、途中から、力無く呟くような声に変わっていっていた。周囲の観衆たちの声はもう耳には入らなくなっていたけど、本当に静まり返っているみたいだ。でもそのことすらうまくは感知できずに、ただただ立ち尽くすだけの私がいる。


「……私はもとより、人を愛することが出来ない人間だったのだと、今になってそう思う……若草、キミを愛していなかったと言えば、そうだったのだろう、いや、そうだったとしか言えない……」


 仰向けでその顔からはほとんどの力が抜けたかのような、恭介さんの言葉が、その言葉だけが、私の鼓膜を震わせてくる。いまさら何を……とか、そんな言葉しか発せなくなっている自分に、呆れるけれどどうしようもない自分も、俯瞰するように見えている。


「今も愛しているとは、言えないのかも知れない……それは、嘘なのかも知れない……だが、これからは、これからならッ!! 人を愛することが、出来るかも知れないんだ……」


 言ってる意味は、半分も分からなかった。その根拠の出どころも含めて。でも何でだろう、私は唇を突き出し眉尻を下げながら、必死で自分の中の渦巻く感情を抑えようと必死になっている。なってしまっている。


「聡太を、若草を、愛させてくれ。愛そうとする、努力をさせてくれ……ッ!!」


 滅裂で、意味不明な言葉。でも私は……私の中の何かは、その発する何かと共鳴して、割れてしまうんじゃないかくらいの衝撃を受け取っているわけで。でも。


「調子いいこと、言ってんじゃねえよ……この『大会』に出張ってきてんなら、私の本性だっていやになるほど見て来ているはず……そうだよ、それが私だよ、嘘いつわりのない、ありのままの私、ダメな私なんだよ……」


 どうしても、そんな言葉しか出なかった。私もこの人の前では常に偽っていた。本当の自分がどうであったかすらも忘れるくらいに。だから、


「私だって、あなたのことを愛していたか、ほんとのところは分からないのに。ぜんぶチャラにして、はい今日からまた、みたいなこと、出来るわけないじゃない……ッ!!」


「……『愛している』というのは、その時々の感情じゃないのかも知れないと、今になってそう感じている……若草、何気ない日々を三人で重ねていって、その積み重ねの先にあるニュートラルな感情の状態を……『愛している』と表現できるのなら……私にもう一度チャンスをくれないか……」


 もうわけが分からなかった。でも分からないなりに、揺さぶられる何かがあったのも確かだった。私はでも、どうしたらいいのか、本当に途方にくれながら、ただ立ち尽くす他は出来なかったわけで。



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